焼くと、皮から蜜が溢れ出し、見るからに食欲をそそる蜜芋。蜜芋といえば、安納芋がすぐに思い浮かびますが、実は蜜芋には安納芋のほかにも、種類があります。今回は知っているようで、意外と知らない「蜜芋」について、その甘さの秘密や、代表格である安納芋について詳しく解説します。後半では、スーパーで、甘くておいしい蜜芋を選ぶポイントについてもご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
蜜芋とは?

蜜芋とは、一般的なさつまいもよりも糖度と水分量が格段に高い品種のことを指します。焼き上げると、中から蜜がしたたり落ちるような濃厚な甘みが現れ、口に入れた瞬間に広がるなめらかでねっとりとした食感が魅力です。特にじっくりと低温で焼くことで、でんぷんが糖へと変わり、まるでスイーツのような深い甘さを堪能できます。
蜜芋はなぜ甘いの?

焼き上げたとき、皮からあふれるほどの蜜が出る蜜芋。その甘さの秘密は、さつまいもに含まれるデンプン質にあります。加熱されることで、デンプンがβアミラーゼという酵素の働きによって麦芽糖へと分解されます。麦芽糖は水あめの主成分でもあり、その甘みの強さも納得です。
ただし、この変化はすべてのさつまいもで起きるわけではありません。蜜芋と呼ばれる一部の品種は、もともと酵素を多く含み、さらにその酵素がしっかり働く温度でゆっくり焼くことで甘さが引き出されます。また、生の段階でじっくり熟成させることも欠かせません。こうした条件がそろったとき、初めてあの濃厚な蜜ととろけるような甘さを楽しめる蜜芋が生まれるのです。
蜜芋の種類
蜜芋にはさまざまな品種があります。もっとも代表的なのは安納芋、紅はるか、紅まさりの3品種です。
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安納芋

鹿児島県・種子島安納地区の特産として名高い安納芋は、蜜芋の代表格といえる存在です。その最大の魅力は、ほかのさつまいもにはない豊富な水分量にあります。
一般的なさつまいもは、品種や購入する季節によっては、焼く過程で水分が抜けてしまい、ホクホク感はあるもののパサつきを感じることも少なくありません。それに対し、安納芋はしっかりと水分を抱えているため、加熱しても失われにくく、どのタイミングで焼いてもねっとり濃厚な仕上がりになります。さらに、焼き上がりの糖度は40度を超えることも珍しくなく、その甘さはまるでデザート。ちなみに、バナナやメロンといった甘いフルーツでも糖度はおよそ20度前後ですから、その倍近い甘さを誇る安納芋が“蜜芋の王様”と呼ばれるのも納得ですね。
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紅はるか

紅はるかは、糖度が高く、しっかりとした甘みを感じられる一方で、しつこさがなく上品で後味がすっきりとしているのが魅力です。加熱することで甘さはさらに引き立ち、安納芋と肩を並べるほどのねっとりとした食感が楽しめます。そのため焼き芋としてはもちろん、スイーツや煮物、サラダなど幅広い料理にもなじみやすい万能な蜜芋です。
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紅まさり

安納芋がころんとした丸みのある形なのに対し、紅まさりは一般的なさつまいもらしい、細長くラグビーボールのようなフォルムが特徴です。焼き上げると、舌の上でほどけるようなしっとりなめらかな口当たりで、その食感は紅はるかにも近い印象があります。そして何より、ひと口かじれば蜜がじゅわっと広がるような濃厚な甘さ。蜜芋の名にふさわしい、深い味わいが堪能できます。
安納芋の甘さの理由
蜜芋とひと口に言っても品種は数多くありますが、その中でもやはり真っ先に思い浮かぶのは安納芋でしょう。全国的な知名度と人気を誇り、まさに蜜芋の代表格といえる存在です。ここからは、その名声を支える甘さの秘密について、じっくりとひも解いていきます。
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種子島の風土と気候

安納芋の深い甘さと濃厚な味わいは、種子島ならではの風土と気候に支えられています。種子島は、かつて海底から隆起してできた島で、その土壌にはさつまいも栽培に欠かせないミネラルが豊富に含まれています。さらに島全体が標高の低い平坦な地形であるため、周囲を取り囲む海からの風が絶えず畑を吹き抜けます。この海風にはミネラルがたっぷりと含まれており、畑の土にしみ込みながらさつまいもへと行き渡ります。こうして、自然の恵みをたっぷり蓄えた、甘く濃厚な安納芋が育まれるのです。
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安納芋の甘さと温度の関係
安納芋が焼き芋にしたときに糖度40度にも達するのは、収穫直後からではありません。掘りたての安納芋の糖度はおよそ16度ほどで、甘さのピークにはまだ遠い状態です。そこから、時間と手間をかけてじっくり焼くことで、デンプンが糖へと変化し、糖度は一気に40度近くまで上がっていきます。
焼き上げの過程では、安納芋に多く含まれるデンプンが、酵素の働きによって麦芽糖へと変わります。この酵素がもっとも活発になるのは65〜75℃前後の温度帯。この温度を維持しながらゆっくりと火を通すことで、濃厚で甘い焼き芋が出来上がります。さらに、甘さを引き出す秘訣は焼き方だけではありません。収穫後に15〜17℃の貯蔵庫で1〜2ヶ月ほど寝かせる「熟成」を行うことで、酵素の働きが高まり、デンプンはさらに糖へと変化します。安納芋はほかの品種に比べてデンプン量が豊富で、酵素の活性も高いため、この過程を経ることで極上の甘みが生まれるのです。
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おいしい蜜芋の選びかた

蜜芋を選ぶときには、見た目や手触りにちょっとしたコツがあります。スーパーで手に取る際には、次のようなポイントを意識してみると、おいしい蜜芋に出会える確率がぐっと高まります。
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重み
蜜芋は見た目の大きさが同じでも、中身の詰まり具合によって重さに差が出ることがあります。軽いものは水分や養分が少なく、焼き上げてもパサつく場合がある一方、手に取ったときにずっしりと重みを感じるものは、水分と糖分がしっかり詰まっている証拠です。スーパーなどで選ぶ際は、同じくらいのサイズの芋をいくつか持ち比べ、しっかりとした重みのあるものを選ぶと、蜜たっぷりでねっとり濃厚な焼き芋に出会える確率が高まります。
切り口

甘い蜜芋を見分けるときの大きなヒントになるのが、切り口や皮の表情です。とくに糖度が高い蜜芋は、切り口から蜜がじんわりにじみ出ていることがあり、指先で触るとほんのりベタつきを感じます。こうした蜜芋は間違いなく甘みがしっかり詰まっています。また、表面がベタついていなくても、切り口が黒っぽく変色しているものは狙い目です。実はこの黒い部分は蜜が乾燥して固まったもので、熟成が進み糖度が高い証拠。見た目で判断しやすいポイントなので、スーパーで選ぶ際にはぜひチェックしてみてください。
表面

食感のよい蜜芋を選ぶコツは、表面の状態にあります。理想は、皮の表面がなめらかでツルッとしたもの。こうした蜜芋は繊維が少なく、焼き上げたときに口当たりがしっとりなめらかになります。一方で、小さな凹みがたくさんあり凸凹しているものは、繊維質が多く食感がやや粗くなりがちです。もちろん味わいに大きな問題はありませんが、よりクリーミーな食感を求めるなら、くぼみが少なく浅い蜜芋を選ぶのがおすすめです。見た目のきれいさが、そのまま食感の滑らかさにもつながります。
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形

蜜芋を選ぶときは、形や大きさにも注目すると甘さの当たり外れを減らせます。サイズは、手に収まる程度の中くらいが理想的。大きすぎると加熱ムラが出やすく、小さすぎると水分や糖分が少なめになる傾向があります。また、形も甘さを左右するポイントです。調理時間を短くするためについ細長い芋を選びがちですが、実はふっくらと丸みを帯びた形のほうが、じっくりと熱が入りやすく、内部のデンプンが糖に変わりやすくなります。その結果、焼き上げたときの甘さがより濃厚に感じられます。見た目の丸さは、蜜芋の甘みを見極めるひとつの目安です。
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まとめ

これまで安納芋をはじめとする人気の蜜芋について、その魅力やおいしさの理由を見てきました。蜜芋は、ただ焼くだけで濃厚な甘みとしっとりなめらかな食感が味わえる、まさに天然のスイーツです。この特別な甘さは、品種だけでなく、育つ環境や収穫後の貯蔵方法によっても大きく左右されます。そして糖度は、時間をかけてじっくり焼くことでピークに達します。だからこそ、紅はるかや紅まさり、シルクスイートなど、複数の蜜芋を同じように焼き上げて食べ比べてみると、それぞれの個性が際立ってより楽しめます。
ぜひ本文で紹介した選び方のポイントを参考に、あなた好みの蜜芋を見つけて、極上の甘さを存分に堪能してみてください。
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