近年、さつまいもの生産量全国1位を誇る鹿児島県では、安納芋などの収穫量が減少しています。こうした事態は基腐病による感染拡大が原因と言われていますが、そもそも基腐病とはどのような病気なのでしょうか。ここでは、基腐病の特徴や原因、被害状況などについて解説します。
サツマイモ基腐病とは?
近年、さつまいもへの発生が国内で確認され、全国的に被害が拡大している「基腐病」。降雨などによって感染が広がりやすく、一度発病してしまうと防除が難しいカビの病気です。これまでに、南北アメリカやニュージーランド、アフリカなど世界各国で発症がみられ、日本では2018年に沖縄県や鹿児島県、宮崎県のかんしょ産地において初めて発生しました。まずは、基腐病の原因や症状について解説します。
サツマイモ基腐病が急速に全国に広がっている。基腐病対策の基本は「持ち込まない、増やさない、残さない」の三つである。最も重要なことは、無病健全苗を生産または確保し、圃場に植え付けることである。発生が認められた圃場では、生育初期の発病株の抜き取りと予防的な薬剤散布、排水対策、早期収穫、罹病残渣の持ち出しと分解促進、土壌消毒、抵抗性品種の利用またはかんしょ以外の作物との輪作、休耕などの対策を総合的に実施する必要がある。
サツマイモ基腐病の原因
基腐病は、カビの一種である「Plenodomus destruens」という糸状菌による病害です。菌糸が種イモや苗に感染し、それらが圃場に植えられることで発病します。他の病害に比べて感染力が非常に強く、短期間で被害が拡大しやすいため、発症すると重大な被害をもたらすのも特徴の1つです。また、菌の胞子が、降雨や滞水に混じって飛び散って周辺の株に伝染することも多く、排水不良や降雨量が多い圃場では、発生が助長される傾向にあります。なお、さつまいも(ヒルガオ科)以外の栽培作物で、基腐病が自然発生することは基本的にありません。そのため、基腐病の被害が目立った圃場では、さつまいもの連作を避け、他品目を栽培する、もしくは一時的に耕作を休止することが望ましいと言われています。
サツマイモ基腐病の主な症状
基腐病を発症した場合、主に以下のような症状がみられます。
- 葉の変色(黒〜暗褐色)
- 茎葉の変色(紫色や黄色)
- 生育不良
- 腐敗(重度の場合)
基腐病に感染した作物は、葉が黒色〜暗褐色に変色し、生育が抑制されます。圃場で生育不良やしおれ、葉や茎葉の変色などがみられる場合は注意しましょう。その後、症状が進むにつれて、葉や茎は枯れ上がり、酷い場合には茎に近い側のさつまいもから腐敗します。収穫時に症状がみられない場合でも、貯蔵中にさつまいもが腐敗することもあるため、注意しましょう。放置すると感染が拡大するため、葉の変色や生育に違和感がある場合は、早急に株元を確認することをおすすめします。
サツマイモ基腐病の被害状況
基腐病は、2018年に沖縄県や鹿児島県などの、かんしょ産地で発生が確認されたのを皮切りに、全国の農家に影響を与えています。ここからは、国内における基腐病の被害状況について解説します。
サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策標準作業手順書
2018 年秋から、かんしょの主要産地である鹿児島県および宮崎県において、かんしょの株が立ち枯れ、塊根(イモ)が腐敗する症状が多発し、収量の減少が大きな問題となりました。同じ頃、沖縄県のかんしょ産地でも同様の症状が認められていました。腐敗したかんしょから菌を分離したところ、これらの 3 県では国内でこれまで発生報告の無かったサツマイモ基腐病が発生していることが明らかとなりました。
全国に拡大しつつある基腐病
2018年に、国内で初めて確認された基腐病は、ここ数年で被害が深刻化しています。沖縄や九州を中心に、茨城県や千葉県などさつまいも生産上位5県を含む、多くの都道府県で発生が確認され、全国的に広がっているのです。県では注意報を出し、防除対策の徹底を呼びかけていますが、今後も被害の拡大が懸念されています。
さつまいもVSさつまいもを苦しめる病気
ころんとかわいい見た目にぴったりの、甘い野菜と言えば「さつまいも」ですよね。焼くだけでも、天ぷらにしても、スウィーツにしても最高なマルチプレイヤーのため、大好きな人も多いことでしょう。しかし、皆のアイドル「さつまいも」が数年後には、「食べられなくなる可能性」がゼロではないと言われているのです。サツマイモにも、人間と同様にさまざまな病気があり、日々さつまいもや農家さんたちを苦しめています。さつまいもの病気には、どのようなものがあるのでしょうか?
サツマイモ基腐病
基腐病は、アメリカで約100年前に発見された病気です。アジアにおいても、この約10年の間に感染が広がりました。基腐病が生じると、さつまいもの葉の色が変わって、生育不良になります。さらに、さつまいも自体の根元も黒く変色し、腐敗することが特徴です。日本では、2018年の11月から感染の報告が上がってきており、現在では以下の都道府県で確認されています。
東北地方
山形県、北海道
関東地方
群馬県、茨城県、東京都、千葉県、埼玉県
中部地方
静岡県、岐阜県、福井県、石川県、長野県
関西地方
兵庫県、大阪府、和歌山県
中国・四国地方
高知県、愛媛県、鳥取県、広島県、岡山県
九州地方
沖縄県、鹿児島県、宮崎県、福岡県、熊本県、長崎県
当初は、九州を中心に感染が流行していましたが、徐々に各地域へ感染が拡大しました。そのため、国も支援策を考えるなど、「さつまいも基腐病」の問題は深刻化しています。
サツマイモ基腐病はどのように感染するの?
2020年は、特に基腐病の感染地域が拡大しました。理由は、梅雨シーズンの記録的な雨量と高温多湿が原因です。基腐病は、糸状菌と呼ばれる「カビ」が原因で生じます。糸状菌は、有用微生物(EM:Effective Microorganisms)の発酵食品や、医療品を作る上でかかせない菌でもありますが、条件が揃うとさつまいもの病気を引き起こしてしまうのです。糸状菌は排水が悪い場所で発症しやすく、雨などによってカビの胞子が飛沫し、周囲のサツマイモ畑に広がることで、感染します。また、この病気に感染しているさつまいもを種芋にしてしまうと、発病だけではなく、感染したさつまいもを育てていた土壌もしっかりと殺菌しなければいけません。なぜなら、育てていた土壌からも感染するという、恐ろしい一面があるからです。
サツマイモ基腐病が及ぼす影響について
現在では、1本200円程度でさつまいもを購入することができます。そのため、さつまいもは、料理やスウィーツ作りなどにも愛用しやすい素材です。しかし、さつまいも基腐病がこのまま拡大を続けていけば、さらに収穫量が下がり、価格も少しずつ高騰していくことが予想されます。また、さつまいもは、「芋焼酎」の主な材料として使われている他、お菓子やジュースなどの甘味にも使われる「でん粉」を作る際にも、欠かせない存在です。私たちが思っている以上に、さつまいもは多くの場面で使われています。もし、収穫量が減少したら、その分大きな影響を受けることでしょう。
特に深刻な被害を受ける鹿児島県
基腐病によって、特に大きく収穫量を減らしているのが鹿児島県です。農林水産省の調査によると、さつまいもの作付面積が全国1位である鹿児島県の2021年の収穫量は、約19万600トン。これは、農水省が統計を取り始めて最も少ない数値といわれ、約21万4,700万トンだった2020年と比べて、約2万4,000トン減少している状況です。実際、鹿児島県内の7割以上の圃場で基腐病の発症が確認されており、被害を受けた農家の中には安納芋栽培からサトウキビに転作した方もいるようです。基腐病の流行は、安納芋を含むさつまいもの収穫量に、重大な被害を及ぼしていると言えるでしょう。
サツマイモ基腐病の防除対策について
基腐病の防除対策の基本は、病原菌を「持ち込まない」「増やさない」「残さない」ことが大切です。特にまだ基腐病が生じていない地域では、「持ち込まない」ための対策を欠かさないようにしましょう。
具体的には、
- 種イモは未発生本圃から採取する
- 種イモの選別を徹底する
- 種苗を定期的に更新する
- こまめに苗床や種苗などを消毒する
- 長靴や農機具などの機材は使用後に洗浄や消毒する
などの対策を行うことをおすすめします。
さつまいもの病気対策①:菌を持ち込まない
さつまいもの病気を防ぐために大切なのは、まず、畑の中に病原菌を持ち込まないことです。一度持ち込まれた病原菌は、簡単に除去することはできません。畑に持ち込まないような工夫をしましょう。
ウイルスフリーの苗を購入する
畑に病原菌を持ち込まないために、ウイルスフリーの苗を利用するのが、とても効果的です。さつまいもの苗は、親芋から出た芽を切り取って作られます。そのため、親芋が病気に罹っていると、最初から病気に罹った苗が作られてしまいます。病気に罹っていても、見た目では分からない場合も多いです。そのため、植え付ける苗の中に、病気の苗が1本だけでも混ざっていると、やがて他の苗に伝染してしまう可能性が高いのです。そこで、通常の苗作りではなく、組織培養などによって作られた、ウイルスフリーの苗を使用すると、畑への病原菌の持ち込みを防げます。最近では、ホームセンターでも取り扱いが多いので、入手は難しくありません。通常の苗に比べるとやや割高ですが、「安心」を購入できるのでおすすめです。
苗の消毒をする
ウイルスフリーではなく、通常の苗を使用する場合は、植え付け前に苗の消毒をしましょう。消毒方法は、お湯による消毒と、殺菌剤(農薬)による消毒があります。お湯による消毒は、バケツなどに47~48℃のお湯を張り、苗を15分程度浸します。長時間浸すと苗自体が弱ってしまうので、注意してください。お湯に浸すと病原菌の消毒とともに、発根しやすくなるメリットもあるので、おすすめです。殺菌剤による消毒は、「ベンレート水和剤」などの農薬で消毒します。バケツなどに殺菌剤を入れて、苗を浸します。なるべく、植え付け直前に消毒するようにしてください。実際に農薬を使用する際は、必ずラベルをよく読んで使用しましょう。
一方で、基腐病が生じた場合は、基腐病を圃場に定着させないことが重要です。そのため、排水対策や他品目の栽培・休耕、予防的な薬剤散布などの早期対策で封じ込めることが望ましい、とされています。また、抜き取った発病株を圃場に残した状態では、基腐病の被害が蔓延する原因となるため、袋に入れるなどの処理をとったうえで廃棄しましょう。
まとめ
基腐病は、主にさつまいもに感染する害病で、感染株や残渣、水などから周囲の健全な株に伝染します。そのため、発病が疑われる株を見つけた場合は、すぐに抜き取り、圃場の外に持ち出して適切に対処することが大切です。安納芋に限らず、栽培期間中は日々の観察などを通して早期発見・早期防除を心がけ、基腐病の被害拡大を防ぎましょう。
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さつまいも黒斑病(こくはんびょう)
黒斑病は、さつまいも基腐病と同じく糸状菌(カビ)が原因です。ネズミ・土壌害虫(ハリガネムシなど)などが、さつまいもを食べるときについた傷から病原菌が侵入し、黒斑病に感染してしまいます。また、黒斑病に感染している種芋を使用して育てた場合や、収穫する際についた傷から感染してしまう、などのケースもあるので注意が必要です。特に一番恐ろしいのは、収穫し熟成させている間に感染が広がると、深刻な問題につながると言えるでしょう。症状としては、さつまいもに黒い斑点が現れるとともに、病斑部分がくぼんでいきます。そして、塊根内部にまでカビ(毛のような見た目)が発生し、腐敗するのです。
こういう状況に陥ってしまうと、無病の種芋を選んだ上で、農薬や温湯消毒などで種芋を消毒する必要があり、最初から最後まで気が抜けないことになります。