
冬が訪れると、干し芋好きにはたまらない季節がやってくる。干し芋専門店だけでなく、コンビニやスーパーの店頭にも様々な種類の干し芋が並び、その光景はまさに干し芋好きにとっての楽園だ。手軽に干し芋が手に入り、いつでもどこでも楽しめるこの数か月は、干し芋愛好家にとっての至福のひとときと言えるだろう。しかしながら、近所で買える干し芋をひと通り試してしまうと、ふと物足りなさを感じることがある。初めて食べたときの感動や、新しい種類との出会いの喜びが次第に薄れ、いつか訪れた干し芋専門店の味を思い出して恋しくなることもあるだろう。でも、その店まで足を運ぶのは現実的に難しい日も多い。交通手段や時間の制約があれば、なおさらだ。
そんな状況の中で、「どうしようか」と悩んでいたある日、突然一つのアイデアが閃いたのだ。まるで有名な句「鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス」を思い浮かべるように、自分の中でこう置き換えてみた。「無いのなら、作ってしまおう、干し芋を」と。そして、その瞬間から、干し芋を自作するという新しい挑戦への意欲が湧き上がってきた。「どうやって干し芋を作るのだろう」「家でも美味しい干し芋が作れるのだろうか」と思いながらも、その未知の領域への期待と興奮が心を満たしていく。こうして、自ら干し芋を作り出すという一歩が踏み出されることになったのだ。
干し芋の作り方とは
干し芋を作る工程は、
- さつまいもを蒸す
- 皮をむく
- 切る
- 干す
この4つである。非常にシンプルだ。だが、そのシンプルな工程の中にも、美味しく作るポイントがあるのだろう。せっかくならば、美味しい干し芋を作りたい。インターネットに数多ある情報から、理想の干し芋を作るための情報を取捨選択する必要がある。
必要な道具は何か…。①②③は、家にあるものでできるだろう。だが、④においては、さつまいもを干すための、何か道具が必要だ。昔、祖母が家で梅干しを作るときに使っていた、ザルがあるかもしれないと思いついたが、ただのザルでは、スズメやカラスなどの襲撃には対応できないだろう。何か良いものがないものかと情報収集をしていた時、目に飛び込んできたのが、ダイソーの干し網だった。ということで、早速ダイソーに行ってみた。
ダイソーで干し網を買ってみた
ダイソーと言えば、言わずと知れた100円均一の商品を主に販売しているお店で、2022年には、なんと50周年を迎えたそうだ。国内4,000以上、海外にも2,200以上もの店舗を構えている、業界ナンバーワンの巨大企業と言えるだろう。なんでも、東京ガールズコレクションとのコラボ商品を販売したり、銀座に出店したり、一昔前の100円均一ショップのイメージを、どんどん塗り替えるような快進撃だ。ダイソー的に言えば、”ダイソーれた”ことに挑戦し続けているのだ。
※画像はお店の方の了承を得て撮影しています。
さて、お目当ての干し網はどこだろう。店内をうろうろしながら、「店員さんに訊いてしまおうか」と思い始めたころ、お目当ての干し網を見つけた。何のコーナーと言えばよいのだろうか、割りばしやレジャーシートなどがならぶ一角に、こんなに沢山並んでいた。1個200円税別である。100円ではないのでご注意を。
無事にダイソーの干し網を入手した。これで「干す」ことに関しては盤石だ。
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忘れてはいけないさつまいも選び
先ほど挙げた4つの工程の前に、大事なことがある。それは、さつまいも選び、である。作る前に、自分がどんなさつまいもが好みなのか、どんな干し芋を食べたいのか、を考えなくてはいけないだろう。糖度の高いものか、甘さ控えめであっさりしたものか、食感はやわらかいものか、硬めのものか…。人それぞれ、好みがあるに違いない。
できる、できないはさておいて、今回、私は自分の好みである、甘くてねっとりやわらか食感の干し芋を目指すことにした。
そこで、選んださつまいもは、”紅はるか”。加熱した際の糖度は60度を超えると言われている紅はるか。食感はねっとり系で、30以上あるさつまいもの品種の中でも、人気はトップクラスと言えるだろう。紅はるかの登場が、従来の干し芋がもつイメージを変えたと言っても過言ではないかもしれない。しかも、今回は、スーパーで「紅天使」を入手できたので、それを使ってみることにした。紅天使とは、茨城県にあるさつまいも専門の卸問屋「株式会社ポテトかいつか」が持つ、紅はるかのブランド商標である。茨城県内のカスミや、イオンなどのスーパーでは、この紅天使の焼き芋をよく目にするのだ。
さつまいもは、収穫直後よりも、寝かせる(上手に貯蔵する)ことで、その甘みが増す。紅天使は、株式会社ポテトかいつかが独自のノウハウで、紅はるかを寝かせて、甘みを引き出したものなのである。つまり、さつまいもを購入後に寝かせる必要がない、これはとてもありがたいことだ。これまで、紅天使の焼き芋は良く食べていたが、生の状態で購入するのは初めてだ。これは期待せずにはいられない。
ダイソーの干し網で干し芋作り
~工程①蒸す~
ダイソーで干し網を買った。身の回りで入手できる範囲内では、最高のさつまいもを入手した。いよいよ、ここからが本番だ。2月某日、大安。干し芋作りを始めるには最高の日だ。向こう1週間ほどは、雨の降る予報は今のところない。
第一の工程は、さつまいもを蒸すことだ。蒸し器がなくても、レンジやフライパン、炊飯器などで代用できる。私の求める、甘くてねっとりやわらか食感の干し芋を作るための、ここでのポイントは、じっくり熱を加えること、そして、水分を飛ばさないこと、である。じっくり熱を加えることで、さつまいものでんぷんが糖に変わり、甘みが強くなるのだ。
レンジ、フライパン、炊飯器、これらを使用して蒸す場合、最も手軽で時短調理が可能なのは、レンジである。しかしながら、急速に熱を加えるレンジでは、十分に甘みを引き出せない恐れがある。また、水分が飛んでパサつく可能性がある。ということで、今回はレンジを使用しないこととする。
次にフライパンだが、フライパンに1cm~2cmほど水をはったところに、さつまいもを並べて、フタをして火にかける方法だ。レンジに比べると水分を失うリスクは減ると思うが、時折、さつまいもをひっくり返したり、水を足したりする必要がある。さつまいもの大きさにもよるが、調理時間も小一時間は要するだろう。時間を要する上に、手間も必要だ。
最後に、炊飯器について。調理時間はフライパンと同じぐらいだが、玄米モードを使用することによって、さつまいもにじっくりと熱を加えることができる。そして、水分を逃さずに調理ができるのだ。デメリットとしては、炊飯器の大きさ(さつまいもの大きさ)によっては、釜にさつまいもを並べづらいことがある、ということだ。調理時間を要するが、調理中は炊飯器にお任せ、あとは出来上がりを待つだけだ。私は、あらかじめ、炊飯器で調理を使用と決めていたので、さつまいもを切らずに炊飯器に並べやすい、比較的小さめのさつまいもを購入しようとしていた。その結果、見事に画像のような収まり具合となった。ねっとりした仕上がりにしたい場合は、さつまいもの半分ぐらいまで水を入れると良いようだ。玄米モードで、調理開始のスイッチをオン。
炊飯器に入りきらなかったさつまいもは、もったいないのでトースターで焼き芋にしてみる。
~工程②皮をむく~やけどに注意!
炊飯器の玄米モードでの調理が終了したら、熱いうちに皮をむくのだ。熱いうちに行うことで、つるんとキレイに皮がむけるのである。蒸しあがったばかりのさつまいもを、素手で持っても大丈夫という人はおそらくいないだろう。
有名な干し芋製造メーカーでも、皮むきは手で行っているそうだ。やはり、美味しい干し芋を作るためには、手作業が欠かせないのかもしれない。軍手を着用した手で、熱々のさつまいもを持ち、割りばしの側面やバターナイフで、皮をむいていく。なるほど、確かにつるんと剥ける。熱い思いをしても、このタイミングで行うべき工程であることを、身をもって実感した。また、この時点で、蒸し上がりの状態に個体差があることがわかった。瑞々しさが一つ一つ異なるのだ。おそらく、仕上がりにも差が生まれるのだろう。
炊飯器に入りきらず、トースターで焼き芋にした分も、剥いてしまおう。
~工程③切る~なかなか難しい
熱さと格闘しながら皮を剥いたさつまいもを、少し冷ましてから切る。熱い状態だと、崩れやすいためである。どのように切るか、は好みによるだろう。スタンダードな縦切りも良いし、輪切り、という手もある。だが今回は、あまり大きいさつまいもではないので、縦切りにする。厚さ1cmほどがバランスが良いようだ。が、均一に切るのはなかなか難しい。蒸したさつまいもの柔らかさも相まって、正直なところ、厚さは不揃いになってしまった。この不揃いな厚さ・大きさも、干し芋の仕上がりに影響するに違いない。が、どれも私が自分の手で調理・加工した子たちなのだ。どんな仕上がりになっても、その結果をポジティブに受け入れよう。
なお、トースターで作った焼き芋は、家族が食べたがっていたのだが、その要望を却下し、切ってしまった。そう、焼き芋も干し芋にするのだ。
~工程④干す~ダイソーの干し網使用
さて、満を持して、ダイソーの干し網の登場である。側面にジッパーが付いており、ここから材料を入れ、並べていく仕様だ。不揃いにカットされたさつまいもを並べていく。実は、カットをせずに、丸干し用の分も確保していたのだ。これも干し網に並べていく。
今回、干し網を2つ購入していたので、上段は蒸したもさつまいも、下段は焼き芋、に分けて干すことにした。干し網は、金具で連結させることができるので、とても便利だ。いつか、10個ほどの干し網を繋げて、その中にぎっしりさつまいもを並べて干し芋を作ったら、さぞ壮観だろうなと想像してみた。そんな日はやって来るのだろうか。冬場が干し芋作りにおすすめな点は、気温と湿度にある。気温が18度以上になったり、湿度が高かったりすると、カビが生える恐れがあるからだ。さらに言えば、干し初めは水分が多いため、晴天が2~3日続く日が望ましい。幸い、今回は、乾燥注意報が出るぐらいのカラッカラの晴天が続きそうだ。天日干しで、太陽の恵みを受けた干し芋が期待できる。あとは様子を見ながら、自然の流れに干し芋をを委ねようではないか。夜は室内に取り込むのを忘れずに。
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干す(一日目)
日中は風がなく、穏やかな晴れ。干し芋達は、日光を浴びることができた。夕方から雨が降ったため、急いで取り込んだ。切り方(大きさ、厚さ)にかなりバラつきがあるため、表面が乾燥してきたものと、瑞々しいものとの差が顕著だ。バナナのように黒ずんだ部分が出てきたが、これはさつまいもに含まれるポリフェノールの一種、クロロゲン酸由来の成分が、酸化して黒く変色したものだ。食べても大丈夫である。
干す(二日目)
晴れているが、昨日よりも風が強い分、空気が乾燥している。今日も天日干しだ。空気が乾燥していたおかげで、干し芋具合がかなり進行した。黒い部分も濃くなっている。小さめのものは、これ以上干すとカチカチになりそうなので、今日をもって干し網から卒業にしよう。
干す(三日目)
風はなく、穏やかな晴れの日。冬場の乾燥した空気が功を奏したのか、予想よりも早く仕上がったように思える。平干しより時間がかかると思われた丸干しも、折っても割れない状態だ。表面がまだベタベタしているものもあるが、乾ききっていない、半熟のような状態を食べてみたいので、もうこの辺りで干すのを止めても良さそうだ。
自作の干し芋を食べてみた
天日干しによって、太陽の恵みを浴びて作られた、我が干し芋たち。見てくれは悪いが、どれも愛おしい。味はどうだろう。見た目から、最も期待できそうな干し芋を食べてみる…。
う、うまい!私が目指した、甘くてねっとりやわらか食感の干し芋になっている!半熟っぽさがたまらない。感動すら覚えるほどの仕上がりだ。おそらくは、選んださつまいも自体の良さが大きく関係していると思われるが、この美味しさは、売っている干し芋にも負けていない、と思う。
丸干しも素晴らしい。外側は程よく乾燥し、内側はしっとり、ねっとりとしている。あっという間に1本食べてしまった。焼き芋を干し芋にしたものは、蒸したものよりも水分が抜けているためか、旨みがより凝縮されているようだ。なお、硬めに仕上がった干し芋は、トースターで軽く炙り、柔らかくして食べた。柔らかいが、サクッとした歯切れの良さがあり、食感の妙を楽しむことができた。初めての自作干し芋としては、大満足の結果と言えよう。
まとめ
初めて干し芋を自作してみて、仕上がりに個体差が大きく現れることを実感した。その差が際立つ要因の一つは、切った際のサイズ感にあるようだ。切り方にバラつきがあると、乾燥具合にムラが出てしまうため、干している間、それぞれの状態をより注意深く観察し、適切なタイミングで取り出す必要がある。どの程度の厚みで切るかという初期の選択が、その後の仕上がりに大きく影響を与えることを思い知らされた。さらに、干し芋作りにおいては、さつまいもの選びも重要なポイントだ。甘みが強い「紅はるか」や「安納芋」のようなねっとり系の品種を選ぶか、それとも「紅あずま」や「高系14号」のようなほくほく系を選ぶかで、出来上がりの風味や食感が大きく異なる。選んださつまいもをどのように蒸すか、皮を剥く際にどれだけ丁寧に作業するか、そして切り方や干す環境など、たった4つのシンプルな工程にも、それぞれ工夫の余地が無数にある。
干し芋作りは一見シンプルに思えるが、実際に取り組んでみると、その奥深さに驚かされる。どの工程をどう工夫するかによって、風味、食感、見た目が大きく変わるため、まさに「最善の道のり」は一つではない。何度も挑戦しながら、自分好みの干し芋を探し出す過程そのものが楽しく、新たな発見の連続だ。
干し芋を手作りすることで、市販の干し芋に対する見方も変わるだろう。その手間や工夫がわかるからこそ、干し芋への愛情は一層深まる。ぜひ一度、自分だけの干し芋作りに挑戦してみてほしい。作る過程を楽しみ、完成した干し芋を味わうとき、その喜びはひとしおだろう。そして、干し芋の世界がより広がり、さらにその魅力を愛するきっかけとなるだろう。