焼き芋と聞くと、ほくほくとした食感にやさしい甘さが広がる昔ながらの味を思い浮かべる方も多いでしょう。けれども、最近の焼き芋は少し様子が違います。とろけるようにしっとりとした「ねっとり系」が人気を集め、さらに冷やして食べる“スイーツのような焼き芋”まで登場しています。まるでアイスクリームのようななめらかさがあり、季節を問わず楽しめる新しい食べ方として注目を浴びています。
一体、昔ながらのほくほく系と、今話題のねっとり系では何が違うのでしょうか。味わいの秘密には、焼き方だけでなく、さつまいもの品種にも深い関係があります。ここでは、焼き芋の食感や甘みを決める理由、そして品種ごとの特徴について、わかりやすくご紹介していきます。
手軽に買えるようになった焼き芋、今と昔の違いとは?

今ではすっかり身近になった焼き芋ですが、かつては少し特別なおやつでした。トラックの荷台に石焼き機を積んだ移動販売車が街を回り、「い〜しや〜きいも〜」という独特の呼び声が響くと、あちこちの家から子どもも大人も買いに出てくる…そんな光景が日常にありました。皮は香ばしくパリッと焼けていて、割ると中からほくほくと湯気が立ちのぼる黄金色の実。甘くて優しい香りに包まれながら食べるその味わいは、まさに冬の風物詩だったのです。
そんな懐かしい焼き芋も、時代とともに姿を変えました。今ではスーパーの店頭で焼かれていたり、八百屋さんの軒先で販売されていたり、さらには専門店まで登場しています。焼き方や品種にこだわるお店も増え、気軽に立ち寄って買えるようになりました。
そして近年、焼き芋の世界にはさらなる進化が見られます。昔ながらのほくほく系に加え、しっとりと甘く、スプーンですくえるほどねっとりした焼き芋が人気を集めているのです。しかも、冷やして食べるとまるでスイーツのように濃厚な味わいになるとして、夏場でも楽しまれるようになりました。
つまり焼き芋は今、「温かくてほくほく」から「冷やしてとろける」まで、好みや季節に合わせて楽しめる多彩なおやつへと進化しているのです。
焼き芋はねっとり系?それともほくほく系?
焼き芋の奥深さに魅了されると、「この品種を焼いたらどんな味になるんだろう?」と気になってしまうものです。しかし、さつまいもの世界は想像以上に広く、登録されている品種だけでもおよそ60種類もあると言われています。地域限定の品種や新しいブランド芋を含めれば、さらに多くの種類が存在し、とても一度では味わいきれないほどの豊かさです。
だからこそ、焼く前にその芋の特徴を知っておくと、味の違いをより深く楽しむことができます。たとえば、同じ焼き芋でも、使う品種によって食感や甘みの印象が大きく変わります。しっとりと蜜のような甘さが際立つ「ねっとり系」、一方で、口の中でほろりとほどける上品な甘さの「ほくほく系」。さらにその中でも、軽やかであっさりとした甘みを持つものから、スイーツのように濃厚な甘さを感じるものまで、個性はさまざまです。
まさに、どの品種を選ぶかで、焼き芋の世界がぐっと広がるのです。
ほくほく系の焼き芋が好きな人は、鳴門金時や紅あずま

さつまいもの中でも定番として知られる「鳴門金時」や「紅あずま」、そして西日本で広く栽培されている「高系14号」は、昔ながらの“ほくほく系”を代表する人気の品種です。どれも口に入れた瞬間に広がる甘みが魅力で、特に焼き芋にすると、まるで芋ようかんを食べているような濃厚で上品な甘さを楽しめます。
このタイプの焼き芋は、身がしっかりとしていて、箸で割るとほろりと崩れるほどの粉質が特徴。噛むほどにほくほくとした食感と素朴な甘みが広がり、どこか懐かしい安心感を与えてくれます。昔はこのほくほく系こそが“焼き芋らしい焼き芋”として親しまれてきました。栗のようにでんぷん質が多く、香ばしい皮とともに味わうその美味しさは、まさに王道。今もなお、多くの人の心に残る伝統の味わいといえるでしょう。
ねっとり系の焼き芋といえば、安納芋や紅はるか

昔の焼き芋が“ほくほく系”ばかりだったのには、きちんとした理由があります。かつては水分の多い芋は「水芋」と呼ばれ、べたついた食感が敬遠されていました。さらに貯蔵性の面でも、しっとりとした芋は保存が難しく、冬の間じっくり味わうには向かなかったのです。そのため、でんぷん質が多く長く保存できるほくほく系が主流となっていたわけです。
そんな常識を覆したのが、「蜜芋」とも呼ばれる安納芋の登場でした。焼くと蜜があふれるほど糖度が高く、ねっとりと濃厚な甘さはまるでスイーツのよう。そのとろける食感が話題となり、焼き芋のイメージを一変させました。
その後、紅はるかやシルクスイートといった新しいねっとり系の品種が次々に登場し、それぞれが個性豊かな甘みや香りで人気を集めます。これらの芋がきっかけとなり、「焼いてから冷やして食べる」という新しい楽しみ方も広まりました。冷やすことで甘みがさらに際立ち、まるでスイートポテトのようななめらかさを味わえます。
焼きたての熱々をアイスクリームと一緒に楽しむもよし、冷蔵庫で冷やしてしっとり甘く味わうもよし。今では焼き芋が、昔のおやつから、洋菓子のようなデザートへと進化したのです。
あっさりした甘みの焼き芋が好みの人は、紫芋

甘いものがあまり得意ではなく、「焼き芋はほのかな甘さがちょうどいい」という方もいるでしょう。そんな方にぴったりなのが、上品でやさしい甘みを持つ紫芋系の品種です。たとえば「種子島紫」や「アヤムラサキ」は、どちらも糖度が控えめで、さらりとした後味が特徴。濃厚すぎず、すっきりとした甘みなので、甘いものが苦手な方でも食べやすい焼き芋になります。
紫芋とひと口に言っても、その食感は品種によってさまざまです。しっとり系であっさりとした甘さを楽しみたいなら「ムラサキホマレ」、ほくほくとした軽やかな口当たりを求めるなら「種子島紫」や「パープルスイートロード」がおすすめです。特にパープルスイートロードは、紫芋の中でも香りがよく、焼き上がると深い紫色が映えるため、見た目にも美しい一本です。
こうして見てみると、焼き芋はまさに品種ごとに“個性の宝庫”。スーパーや直売所などでさつまいもを選ぶときには、「今日はどんな焼き芋を味わおうかな」と食感や甘みを想像しながら選ぶのも楽しいものです。おうちで焼きたてをほおばる時間は、きっと特別なおやつのひとときになるでしょう。
まとめ

焼き芋と一口にいっても、その世界はとても奥深く、時代とともに進化を遂げてきました。かつては、移動販売車の石焼き機から漂う香ばしい香りとともに楽しむ“ほくほく系”が主流でしたが、今では“ねっとり系”や“冷やし焼き芋”など、新しいスタイルも人気を集めています。
昔ながらのほくほく系は、「鳴門金時」や「紅あずま」「高系14号」に代表され、栗のようなほろりとした食感と素朴な甘みが魅力。どこか懐かしさを感じさせてくれます。
一方、ねっとり系は「安納芋」や「紅はるか」「シルクスイート」などが代表格で、蜜があふれるような濃厚な甘さとしっとりした舌触りが特徴。焼いて冷やすと、まるでスイートポテトのようなスイーツ感覚で楽しめます。
また、甘さ控えめで上品な味わいを好む人には、「種子島紫」や「アヤムラサキ」といった紫芋系もおすすめ。すっきりとした甘みで、見た目の美しさも魅力です。
このように、焼き芋は品種によって味わいや食感がまるで違います。気分や季節に合わせて選べば、同じ焼き芋でも新しい発見があるはず。ぜひお気に入りの品種を見つけて、自分だけの“焼き芋時間”を楽しんでみてください。








