令和の米騒動から見えた五島列島のお米事情と農家の課題と未来とは?

五島列島のお米事情|価格高騰と流通の現状、農家の課題と未来とは?

五島で初めての備蓄米販売。その反響とは?

先日、五島で初めて備蓄米が販売されました。離島まで出回るのはいつになるかと思っていましたが、意外にも早くて驚きました。販売したのは九州で展開しているドラッグストアです。混乱を避けるためか事前告知はされていなかったようですが、販売開始から1時間で、5㎏1,980円(税込)のお米が80袋完売したそうです。島内の別のドラッグストアでも備蓄米を確保し、販売予定とのチラシが貼られていました(時期は未定)。

米価の高騰と消費者への影響

五島のスーパーの米陳列棚の様子

昨年9月頃から、このドラッグストアでは10㎏2,880円だったお米が1,000円も値上がりし、3,880円になっていました。当初は一時的なものだろうと考えていましたが、これは始まりに過ぎませんでした。10月には10㎏6,000円台となり、その後も高騰が続き、現在は5㎏で5,000円近くまで上昇しています。10㎏では1万円にもなり、特に会社で働きながら家族に仕送りをしている若い外国人実習生には大きな負担となっています。

五島の飲食店(寿司屋、弁当屋など)に聞き取りをしたところ、地元の知り合いの農家から直接仕入れていたため、昨年末までは仕入れ価格にほとんど変化がなく、値上げするお店もほとんどありませんでした(農家が個人売買で便乗値上げしているという話もありましたが、そうした農家は一握りです)。

米価の上昇と品薄状態が続き、お一人様1袋までという制限の貼り紙

しかし、今年に入っても米価の上昇と品薄状態が続き、お一人様1袋までという制限の貼り紙が出るほどになりました。飲食店や、周囲に農家がいない家庭は悲鳴を上げています。私の嫁ぎ先が米農家だったことを知っている知人や飲食店の方から「お米を売ってほしい」と依頼されることもありましたが、現在は自家消費分しか生産していないため、断らざるを得ませんでした。少々複雑な気持ちです。

20年前の米農家の事情と変遷

掛け干し米

20年前、我が家も多くのお米を作り、島外の個人や飲食店、ホテルにも販売していました。毎日100㎏以上のお米を精米し、近くのヤマト運輸から出荷していた日々です。当時は専業農家はすでに少なくなっていましたが、兼業農家は多く、お米を作る人も大勢いました。福江島でも10㎏4,000円という価格ではスーパーより高いと断られることもあり、在庫を抱えて倉庫に山積みになった米袋を見て途方に暮れたこともあります。古米や古古米は美味しくないと知っています。古古古米は本当に大丈夫なのかと心配したこともありました。

米の精米と袋詰め

その後、配送料や資材、肥料、農薬の高騰により、10年前に我が家は米作りから撤退しました。その頃、国の政策で米以外の作物を作ると面積に応じて補助金が出るようになり、牛の飼料用牧草を田んぼで栽培するようになりました。農家にとって大きな助けとなり、耕作放棄地の増加を緩やかにする効果もありました。機械を持っていない人でも作業委託で元が取れるため、人に農地を貸して米以外を作ってもらうケースも増えました。

五島のJAと米流通の現状

収穫時の米

五島でもJAにお米を出荷する農家は減少しています。そのため、JA直売所でも令和6年産の五島産米が底をつき、長崎県のJAから卸したお米を販売する状況です。スーパーのブレンド米よりも信頼できるとして、直売所のお米もすぐに売り切れる状態です。ドラッグストアにはカリフォルニア米や台湾米も出回っていますが、さすがに売れ残っています。

私が小学生の頃、日本で深刻な米不足が起き、給食にタイ米が出たり、パンしか出なかった週もありました。その時、日本のお米の大切さを実感しました。農家となってその思いは一層強くなりました。当たり前のように食べているお米ですが、米農家が高齢化で減少する今、対策を講じなければ、同じことが再び起こる可能性があります。

今年のJAごとうが組合員から注文を受けた早期の水稲苗は3万6,000箱(こしひかり・なつほのか)で、昨年より2,000箱増えました。ただし、食用がどの程度の割合かは不明です。苗床のキャパシティ不足で注文を断るケースもあったそうです。JAが発表した今年のお米30㎏あたりの買取価格は、1等14,000円、2等13,500円、3等13,000円。地元のお米を地元の人に安心して食べてもらうため、安定供給を図るための価格設定です。JAごとうの広報5月号でも、生産者に食用米の作付けとJAへの出荷を呼びかけていました。

まとめ:消費者と生産者のバランス

五島のお米

最初に報道で米騒動と聞いたときはいつの時代のこと?と思っていましたが、ここまで深刻な米騒動のようなことになるとは全く思っていませんでした。過去の米騒動同様に令和の米騒動の一刻も早い収束を願うばかりです。しかし、価格を下げすぎれば農家が苦しみます。消費者と生産者、需要と供給のバランスが大切だと改めて感じます。また、スマート農業と言われる分野への移行により人手が少なく、足りなくなっても安定的に生産が続けられる環境を整えることが今の令和の米騒動の教訓のひとつなのかもしれません。

五島のお米の炊き立て

5年後、10年後と比較的高齢化している米農家は、間違いなく減り続けるはずです。日本の人口減少以上に顕著に表れて来るように思われます。令和の米騒動以上に少し先の未来を見据えた施策、対策が必要ではないかと思います。