数ある洋菓子の中で不動の人気を誇る「パイ」。その中でもアップルパイが定番として知られていますが、さつまいもを使ったパイも負けず劣らず絶品です。特に、濃厚な甘さで有名な安納芋を使えば、パイが一段と贅沢な味わいに仕上がります。安納芋特有のしっとりとした食感と自然な甘みが、サクサクのパイ生地と絶妙に調和し、特別感のあるスイーツに。今回は、そんな安納芋を使った手作りパイのレシピをご紹介します。難しそうに思える安納芋パイですが、ポイントさえ押さえれば家庭でも本格的な味わいを楽しめます。また、パイの歴史や魅力についても触れながら、その奥深い世界をご案内します。
パイとケーキの違いとは?
パイの最大の特徴といえば、ケーキとは一線を画すサクッとした独特の食感です。どちらも小麦粉を主材料とするお菓子であるにもかかわらず、作り方の違いがその食感を大きく左右します。例えば、スポンジケーキやシフォンケーキのふわふわとした食感は、卵と砂糖をハンドミキサーでしっかりと混ぜ合わせて空気を含ませる工程から生まれます。この空気を抱き込む作業が、ケーキの柔らかさや口どけの良さを生み出す鍵となっています。一方で、パイ生地はケーキとは全く異なる手法で作られます。小麦粉に水とバターを加えて練った生地に、さらにバターを乗せて包み込み、繰り返し生地を伸ばして折りたたむ作業が特徴的です。
この工程で作られる生地は、折り込みパイとして知られ、お菓子の専門用語では「フィユタージュ」や「パートフィユテ」と呼ばれます。薄く伸ばして折り重ねることで無数の層が作られ、これがパイ独特のサクサクした食感の秘密です。加熱されると、生地に折り込まれたバターが溶け、水分が水蒸気となって膨らむことで層が浮き上がり、香ばしい仕上がりに。こうした手法で作られるパートフィユテは、さまざまな伝統的なお菓子に利用されています。アップルパイやミルフィーユ、フランスの新年を彩るガレット・デ・ロワなどがその代表例です。それぞれの層が作り出す繊細な食感は、焼き上がったときの喜びを一層引き立てます。パイの技法には奥深さがあり、時間をかけて仕上げるその過程にもまた、魅力が詰まっています。
パイの歴史とは?
パイ生地が「フィユタージュ」と呼ばれるのはフランス語によるものですが、パイそのものがフランスで生まれたわけではありません。パイの歴史は非常に古く、起源は紀元前にまで遡るとされています。例えば、古代エジプトの宮殿の壁画には、パイのようなものが描かれており、この時代には既に似た形状の食品が存在していたことが分かります。当時のパイは、現代のようにその味や食感を楽しむためのものではなく、むしろ食材の旨味を閉じ込めるための「容器」や「道具」としての役割を果たしていました。さらに、食材を保存したり、運搬する際の保護材としても使われていたとされています。その後、パイが現在のように食用として発展を遂げたのは中世ヨーロッパ、特に14世紀頃からとされています。この頃になると、パイは単なる食材の包みではなく、料理そのものとして工夫されるようになり、味や食感が重要視されるようになりました。なお、最も古いアップルパイのレシピはイギリスで見つかっています。これはパイがヨーロッパ各地でそれぞれの地域の特産品や好みに合わせて発展したことを示しています。
中世ではパイは高価な食材を使って作られることが多く、もっぱら富裕層が楽しむ贅沢品でした。しかし、19世紀以降になると、技術の進歩や原材料の価格低下により、一般家庭でも親しまれるようになり、その魅力が広く伝播しました。こうして、パイはヨーロッパを超えて世界各地に広がり、多様な文化の中で独自の進化を遂げていきます。長い歴史を持つパイは、単なる料理を超え、さまざまな時代や文化を映し出す食の象徴ともいえる存在です。
パイで代表的なアップルパイとは?
アップルパイは、世界中で愛されるパイの中でも特に有名で、パイといえばアップルパイを思い浮かべる人も多いほどの代表的存在です。このデザートは、サクサクのパイ生地と甘く煮たリンゴが織りなす絶妙なバランスが魅力で、食べる人をホっとさせる素朴な美味しさを持っています。アップルパイの基本は、薄くスライスしたリンゴを砂糖やシナモン、バターなどで煮詰め、パイ生地で包んで焼き上げるシンプルな構成ですが、地域や家庭ごとにさまざまなバリエーションがあります。アップルパイの歴史は非常に古く、最古のレシピは14世紀のイギリスで発見されています。この頃のアップルパイは現代のものとは少し異なり、砂糖が高価だったため甘さ控えめで、スパイスをたっぷりと使った風味豊かなものでした。リンゴは保存が利く果物であるため、冬場の貴重なデザート素材として重宝され、アップルパイは季節の味覚としても親しまれるようになりました。国によってアップルパイのスタイルもさまざまで、アメリカではシンプルな二層のパイが一般的で、しっとりとしたフィリングが特徴です。
一方、オランダでは「ダッチアップルパイ」と呼ばれる、クランブル(そぼろ状の生地)をトッピングしたものが好まれます。
また、フランスには「タルト・タタン」という、キャラメリゼしたリンゴを使った裏返しに焼くスタイルのアップルパイもあります。
家庭で手作りするアップルパイは、リンゴの種類や煮込み具合で味わいが変わるのも楽しいポイントです。甘酸っぱい紅玉や、しっかりとした歯応えのあるグラニースミスなど、選ぶリンゴによって風味や食感が大きく異なります。さらに、フィリングにレーズンやナッツを加えたり、バニラアイスやホイップクリームを添えるなど、アレンジの幅も広く、自分好みの味を追求する楽しさがあります。
アップルパイにも負けない!安納芋パイを作ってみよう!
折り込みパイ生地の作り方を見て、大変そうだと思った方も少なくないでしょう。確かに折り込みパイ生地は生地作りだけでも半日以上かかる、手の込んだものです。しかし、冷凍のパイシートを使えばとっても手軽に焼きたての美味しいパイをご自宅でも味わうことが出来ます!アップルパイであれば、りんごの甘煮作りも必要ですが、安納芋の甘味とねっとりとした食感といった自然の美味しさだけで十分なので、フィリング作りも不要!とっても簡単に作れます。早速作り方をご紹介していきます。
安納芋パイの作り方
1、安納芋は皮付きのままアルミホイルで包み、160℃オーブンに入れて60分焼いて焼き芋にする。
時間はかかりますが、オーブンに入れて放置しておくだけでほぼフィリングは出来上がりなので、とっても楽チンです。低温で長時間加熱することにより、安納芋の甘さが引き出されます。今回はパイにしますが、勿論焼きいもとして食べるにも十分な美味しさです!
2、焼き上がった安納芋の皮を除き、軽く潰す。甘味を強くしたい場合はお好みで砂糖を加えて混ぜる。
柔らかいので、一生懸命に皮を剥かなくても、軽く押し出すだけで中味が出てきます。スプーンをつかうと、無駄なく中身を取り出せます。熱いので火傷には十分に気を付けて作業して下さい。
3、冷凍パイシート厚さ3㎜程度になるように伸ばし、写真のように切る。一方のに包丁で互い違いになるように切り込みを入れる。
パイシートは冷凍庫から出したてだと、硬すぎて作業が出来ないので、常温に10分位おいてから作業するのがオススメです。逆に常温に置きすぎると生地が柔らかくなり過ぎてしまい、切れてしまったりと上手く成型が出来なくなるので注意しましょう。
4、切り込みを入れなかった方のパイシートの上に安納芋のフィリングを乗せる。上から切り込みを入れた方のパイシートを被せる。
パイらしい形になってきました!上の生地を乗せたら、フィリングが出ないように周りを軽くつまんでおきましょう。
5、190℃に予熱したオーブンで15分焼く。
焼き時間はオーブンによって若干1前後するので、キツネ色の焼き色が付くのを目安に調整して下さい。
焼きたてのパイはやっぱり絶品です!安納芋パイを一口食べれば、パイの代名詞はりんごではなくさつまいもであると感じるはず。ちなみに、アップルパイのフィリングであるりんごの甘煮と安納芋のフィリングをミックスしても美味しく仕上がります。
まとめ
パイは古くから親しまれている洋菓子で、アップルパイをはじめさまざまな種類があります。特に安納芋を使ったパイは、しっとりとした甘みとパリッと香ばしいパイ生地の調和が魅力です。パイ生地はケーキとは異なり、折り込み作業によって無数の層を作り出し、サクサクとした食感を生み出します。その手法は「フィユタージュ」と呼ばれ、アップルパイやミルフィーユなど多くのお菓子に活用されています。また、パイの歴史は古代エジプトにまで遡り、食材の保存や運搬に利用されていた時代を経て、14世紀以降は料理として発展しました。今回紹介した安納芋パイは、冷凍パイシートを使うことで手軽に本格的な味わいを楽しめるのが特徴です。甘さと香りの豊かな安納芋を活かした手作りパイで、少し贅沢なティータイムを楽しんでみてはいかがでしょうか。