紅はるか、紅あずまなど、「紅○○」という名のさつまいもは耳馴染みがあるかと思います。では、「紅乙女(ベニオトメ)」はどうでしょう。同じ名前の焼酎メーカーが福岡にありますが、そちらではさつまいもではなく、麦・米麴・ごまを使用した焼酎を製造しています。「紅乙女(ベニオトメ)」でインターネット検索をすると焼酎が検索結果の上位に並ぶところからも、さつまいもの品種としての「紅乙女(ベニオトメ)」はご存じないかたも多いのではないでしょうか。
“すらりとした乙女のよう“という形のイメージから名付けられたというこちらの品種は、長崎県の奨励品種(※)となっており、主に長崎県と鹿児島県で生産されています。今回は、そんな紅乙女(以下、「ベニオトメ」)の特徴を、他の品種と比較しながらご紹介します。後半にはおすすめの食べかたについても触れていくので、ぜひ最後までご覧ください。※奨励品種:自身の都道府県内で普及すべきと認定した優れた品種
紅乙女(ベニオトメ)はどんな品種?
紅乙女(ベニオトメ)は、1990年に「かんしょ農林43号」として登録された品種です。多収性に優れた「九州88号」と、病害虫に耐性の高い「九系7674-2」から生まれました。具体的な特徴に入る前に、まずは出自や栽培方法について見ていきましょう。
紅乙女(ベニオトメ)は九州がメイン
紅乙女(ベニオトメ)は誕生から現在に至るまで、その多くが九州で生産されています。品種登録された年に長崎県・鹿児島県の奨励品種となり、一時期は全国で約200haもの作付け面積がありました。しかし現在、農林水産省が作成したデータ上では長崎県と鹿児島県の2県のみの生産で、作付け面積はそれぞれ19.5haと0.8ha(令和2年現在)。作付けシェア率は0.1%にとどまっています。その他の地域でも作られてはいるものの、流通量が多いとは言えないのが現状です。しかし、近所のスーパーで見つからなくても諦める必要はありません。通信販売を行なっている農家もいらっしゃいますし、また苗を販売しているサイトもあるため、家庭菜園で育てることもできます。気になったかたはぜひチェックしてみてくださいね。
紅乙女(ベニオトメ)は育てやすい! ただし注意点も
紅乙女(ベニオトメ)は先述のとおり、ネット通販で苗を購入することができます。また、この品種は比較的家庭菜園にも向いていると言えます。なぜなら両親の特性を受け継ぎ、耐病虫害性と多収性に優れているからです。さつまいもにとって特に有害とされている、サツマイモネコブセンチュウへの抵抗力が高く評価されています。ただし以下のような問題点もあるので、あらかじめ注意しておきましょう。
- 弱い巻蔓性(蔓が他のものに巻き付く性質)がある
- ミナミネグレセンチュウへの抵抗力はやや弱い
紅乙女(ベニオトメ)の特徴は? 他の品種と比較
紅乙女(ベニオトメ)の産地等について見てきましたが、実際のところ、紅乙女(ベニオトメ)は他の品種とどう違うのかが気になりますよね。今回はみなさんにも馴染み深いであろう4種のさつまいもと比較しながら、その特徴を確認していきましょう。
形 皮色 肉色 肉質 食味 貯蔵性 高系14号 長紡錘 紅 黄 粉 上 やや難 早掘の食味は極良、貯蔵性に乏しい 紅乙女(ベニオトメ) 長紡錘 赤紅色 黄白 粉 上 易 貯蔵性良、食味は高系14号より優れる 紅あずま 長紡錘 濃赤紫 黄 粉 上 難 皮色、形状に優れ、食味は極めて良好 紅まさり 紡錘 赤 淡黄 やや粘 上 やや易 蒸しいもの甘味が強く良食味 紅はるか 紡錘 赤紫 黄白 やや粉 上 易 蒸しいもの甘味が強く食味が優れる 引用元:農林水産省「かんしょの生産等」
紅乙女(ベニオトメ)はほくほく系! 栗っぽさを求める人におすすめ
紅乙女(ベニオトメ)は、紅あずまのようなほくほく系に分類され、栗を彷彿とさせる甘味が特徴的。西日本で多く生産されている高系14号よりも食味が優れている、という評価を受けています。また、煮たときの香りは小豆を煮たときのそれにも似ているのだとか。昔ながらの質感や味わいが好きな人に特におすすめです。一方、しっとり系を食べたい場合は、べにまさりやべにはるかを選びましょう。後者は農林水産省のデータでは「やや粉」となっていますが、しっとり系・ねっとり系と紹介されることも多い品種です。しっとり感がほしい、けど安納芋ほどねっとりじゃなくても良い、という方向けといえます。
紅乙女(ベニオトメ)は貯蔵性抜群!
先ほどの表からもわかるように、紅乙女(ベニオトメ)は貯蔵性に優れています。まとまった量を購入したり、家庭菜園で大量に収穫したりした場合、長持ちする品種だと心に余裕をもって食べ進めることができますよね。ちなみに、さつまいもをより長持ちさせるには気温13~15度、湿度80~90%が理想と言われています。常温保存の場合は水気がない状態で新聞紙に1本ずつ包み、冷暗所に置いておきましょう。密閉状態にすると蒸れてしまうため、さらに箱に入れる場合は閉めきらないようにしてください。
紅乙女(ベニオトメ)に向いている食べ方
紅乙女(ベニオトメ)はほくほく系のさつまいもなので、もちろん焼き芋や蒸し芋にもぴったり。栗っぽさのある甘みをぜひお楽しみください。また、ほくほく系は「加熱時に形が崩れにくい」という特徴を活かせる料理も得意です。
スイーツよりはおかず系で使用するのが良いでしょう。例えば以下のようなものがあります。
- 煮物
- 天ぷら
- 大学芋
- サラダ
- 網焼き
- 芋ご飯
紅乙女(ベニオトメ)のまとめ
紅乙女(ベニオトメ)は、長崎県と鹿児島県で主に生産されている奨励品種で、1990年に「かんしょ農林43号」として登録されました。この品種は九州で広く栽培され、多収性と病害虫耐性に優れていますが、作付け面積は限られており、見つけにくいこともあります。しかし、長崎県においては今日まで奨励品種に登録され続けており、それはつまり品質が高い証拠。西日本で生産が盛んな高系14号よりも食味が優れているだけでなく、病害虫に強いという育てやすさもあります。紅乙女(ベニオトメ)が近くで売っていないという場合は、ネット通販で苗を購入し、家庭菜園で育てることも可能です。紅乙女(ベニオトメ)の特徴は、ほくほくとした食感と栗のような甘さです。これは高系14号よりも優れた食味を持ち、煮物や天ぷら、大学芋などのおかず系料理に適しています。貯蔵性も抜群で、気温13~15度、湿度80~90%の条件で長持ちします。常温保存では新聞紙に包み、冷暗所に置くと良いでしょう。
他のさつまいも品種と比べても、その特徴は際立っています。例えば、べにはるかやべにまさりはしっとり系で甘味が強い一方、紅乙女(ベニオトメ)は昔ながらの質感を持ち、特にほくほく感が好きな方におすすめです。今回紹介した紅乙女(ベニオトメ)の魅力を知り、ぜひその美味しさを家庭で楽しんでみてください。家庭菜園での栽培やネット通販を活用すれば、いつでも新鮮な紅乙女(ベニオトメ)を楽しめるはずです。