日本の社会課題を「20年先取り」する五島で会計コンサルが取り組む農業とは?異質のアグリ・コーポレーションは地方のあり方の一つの可能性とは?

はじめに

僕自身、仕事で赴任するまで訪れる事を考えもしなかった場所です。有限の時間の中いつどこで何をするのか。「単純に働くだけでなく自身の労働を通して何かの価値を提供したい、貢献したい」そう考えている方に対してこの文章を書きます。地域の課題など小難しい話が続きますが、表面的な離島移住ではなく、アグリ・コーポレーションの取り組みと地域について実態的に知っていただけると幸いです。

五島市は本土の長崎市から100㎞の島、田舎です。更にその中でも旧郡部である地元「三井楽町」は過疎化が著しく、人が住んで生活を営んでくれるだけで大変感謝です。「日本の20年後の課題を先取りしている」と言われる位に人口が少なく、労働生産人口は更に少ないです。人口減少の「負のスパイラル」により地域は衰退の一途です。

出展:国土交通白書 2015

そんな中で島内だけでなく、県・国内でも有数の拡大を続ける企業㈱アグリ・コーポレーションを地域経済の観点から記述します。

人が少ないということ

現状維持=衰退です。大半の業種においては人材が重要です。例えば製造業で従業員を確保できないと増産や販路拡大が出来ないし、同じ製品を同じように作り続ける企業は最近の様な原材料高騰など外的要因により苦しくなります。都市部だと「人を確保できないのは会社の問題」と言われる事があります。僻地では人がいない事の原因と深刻度が異なります。まずそもそも人がいないのです。島では各社人材不足にあえいでおり、建設業の人材不足は「公共工事の入札者がいない=橋や道路の補修を出来ない、家も建てられない」、警備会社であれば「警備の依頼を断ることがある」といった風にライフライン維持や安心した生活に直接影響が及びます。当たり前のことですが会社は人を雇い給与を支払い、生活を守り、納税もしてくれます。従業員も経営者もオフでは消費者な訳で、不便な地域からはやがて流出していってしまいます。人口が極端に減少した地方に住んでいると、地元住民や従業員を抱えた会社の存在が地域にとってどれほど有難いか肌で感じられます。

耕作放棄地

人が不足するという事は耕作放棄地が生まれるという事です。高齢化により就農者が減少した五島市では持ち主すら分からなくなった耕作放棄地が多数存在します。耕作放棄地からは雑草や害虫が発生し、近隣の農地へ悪影響を及ぼします。また、五島は台風被害が顕著な事から折れた木等が飛ぶ、吸水能力が失われる=道路に水が流れる等近隣へ害が及ぶ場合があります。そして害獣とされるような野生動物の行動圏となり人の生活圏への進出に繋がってしまう。

アグリ・コーポレーションはこの「地域課題」を「企業の機会」とみて、行政と協力して持ち主を探しながら自社で再生して規模拡大を行っています。芋を作って売れば売るほど会社は儲かり、耕作放棄地は再生されます。しっかりと売上を作ることが次の地域課題へのアプローチをする実行力に繋がっており、着実に一歩一歩地域の課題を資源へと昇華しています。

空き家問題と借家の無さ

島内の企業は軒並み「人材不足」です。そこでアグリでは日本人の他に外国人の「技能実習生」を採用しています。東南アジアからハタチ前後の男女が来て、西の端の島で一生懸命働いてくれています。その際、彼らの住む家がなく困ります。

五島でよくある課題ですが、基本的に空き家はあっても貸してはもらえないものです。

理由は大きく3つあります。

  1. 荷物や仏壇が入っていて片づけられない
  2. 親戚が戻る盆と正月に貸したいから人は入れない
  3. 権利者から管理を頼まれた親戚が物置にしている

実習生の雇用には条件が付くため会社近くに住ませる必要があるのですが、なかなか借家を確保できません。そこでアグリでは空き家を買い上げて改築を予定しています。既に3棟買い上げました。町内には荒廃した家屋が少なくなく、相続者が都市部にいると台風対策もとれません。アグリとしてはこういった家屋の買取・改修を今後も拡大していく予定です。
*余談だが、代表の佐藤氏は島で農家としてのイメージ戦を徹底しています。

臥薪嘗胆なのか、口癖の「不都合を受け入れる」精神か知らんけど創業以来10年間めちゃくちゃボロ家に住んでいました。ホラーゲーム「サイレン」に登場しそうな家でした。(今はまだマシなボロ家に住んでいる)

フレキシブルな勤務(良くも悪くも)

島の人材不足に対して、地元の漁師さんやその奥さん、高齢者をパート採用する事で対応している。出勤時間や退勤時間を短くしたり、時化(しけ)て漁に出れない時出勤等様々である。地元のおじいおばあは家の畑を持っていることが多く、作業スピードも速いです。ただし、一次産業なので気象条件によって労働時間が左右される事(雨が降る前に早朝から長時間勤務で作業を行う等)も就労を検討している方は知っておいて欲しいです。

異質のアグリ・コーポレーションは地方のあり方の一つの可能性

地域内最大規模でありながら、地元三井楽町の一般人から中身がよく見えない会社です。社長の佐藤氏は地元では異質な都会的な経営を行います。会計事務所出身であり、今でも別会社で会計コンサルを行います。

「農家が芋を売る」ではなく「芋を売るために農家をしている」という感覚でしょうか。商売ベースで取引を行うので、しっかりと会社として体力が増していくのです。

年々有機(オーガニック)さつま芋の作付面積を拡大し、取引先を拡大する。

有機さつま芋原料の新製品を開発する、新分野の販路を開拓する。

更に芋の作付面積を拡大する。

そうして今では国内最大の有機安納芋農家です。

このサイクルを進める時、先述の様に休耕作放棄地を再生し、地域の老人や漁師さんとその奥さん、外国人(技能実習生)を雇用します。地域課題を地域経営資源(ヒト・モノ)に転嫁し最大限活用した事業拡大です。農業や漁業、家族様式の変化など時代の変化で以前の生活が成り立たなくなりつつある地方において、個人で賄いきれなくなった事を会社が経営資源に変えていきます。地域の再構築を行っていると言えるかも知れません。

「子供は都市部に進学、企業に就職させる」という話をよく聞く三井楽町において、佐藤氏は逆に家族を本土に残して単身で移住し、大規模な農地を購入・創業しました。数年間赤字でありながらボロ家から農業に食らいつき続けた胆力が凄まじいです。今ではアグリ・コーポレーションに国内大手の役員や、有名なスタートアップの関係者が来社します。佐藤氏の人柄もあっての事と思いますが、企業として国内でも稀有で先進的な地域課題解決の一つの可能性と見られているのではないでしょうか。

今後も会社の一層の発展と地域との調和、三井楽町の再生をお祈りしています。