苦労の一年
社会人生活4年間をふりかえってみて、最初の一年はとにかく苦労の一年だった。運転免許をとったのもほんの数週間内前という…おぼつかない運転で土地勘の無い場所を走るので、自分がどこを走っているのかも、目的地がどこなのかもさっぱり分からない。さつまいもの洗浄や選別の際も、腐っているものや虫が喰ったもの、黒斑がでているものなどは規格外品として弾かねばならないが、今までの人生のなかで、ただの芋をこれほどまじまじと見つめたことはないと言えるほど、とにかく芋と見つめあっていた。
入社のきっかけ
私がこのアグリコーポレーションに入社して、はや4年になる。地元の高校を卒業し、新卒採用だった。アグリ・コーポレーションを知ったきっかけは、島内企業と高校が共同して行った企業説明会だった。その時の自分は、自分の将来について深く考えておらず、ただただ漠然としていた。企業説明会も、ただ授業の一環だから受けているだけだった。進学するつもりはなかったので、島外に出て就職するか、はたまた島内で就職するかと、のほほんとしていた。その企業説明会のときに出会ったのが今のアグリ・コーポレーションであり、現在では統括責任者となった工場長であった。
会社概要を聞いていると、さつまいもを有機栽培している会社らしく、社長は島外からきて起業したらしい。その時の企業概要の説明の仕方が面白かったことと、自分も野菜の有機栽培に興味があったので、農業という新しい世界に飛び込んだ。
入社してから
入社初日は、今、思い出しても少し赤面ものだ。今までは、高校という狭いコミュニティの中で、ぬるま湯につかっていたが、社会人はそうはいかない。周りの人たちは、ほぼ全員が自分と比較して親子ほどの年の差で、はたまた祖父母ほど年が離れている。
自分は、元来人見知りをするほうだったで、初日にした挨拶だけでも緊張して声が出なかった。私が入社したのが4月。その時はまだ苗切が始まっておらず、圃場に液体肥料を散布しる仕事から始まり、さつまいもの洗浄とサイズごとの選別、袋詰めやバラ詰めでの出荷、加工品の袋詰めなど、さつまいもの生産から出荷に至るまでの過程をご指導いただいた。
初めてさつまいもを収穫した時の話
苗切の時期になると、私もいよいよ畑班として苗の定植作業に参加した。苗を切るときも、ただ切ればいいというものではなく、切り取る条件は根本から2~3節残す、節は5~6以上、長さは25~30cm。厳格に決まった条件のもと切り取る。定植の際も、サスケと呼ばれる専用の道具を使う。太さは1cmもないぐらいで長さは30cm程度。先端はフックのようなコの字型をしている。これを使って、畝に対して斜めに植える。これを何万本と繰り返すのだ。言葉にすれば簡単ようにみえるし、実際回りの人たちも難なく入れていく。しかし自分には感覚がつかみにくく、満足に定植できるようになったのも定植する圃場があと数枚といったところだった。
定植が終わってもまだやることは沢山ある。病害虫や獣害の対策だ。ヨトウムシと呼ばれる灰色の芋虫やシカが葉をかじり、イノシシが芋を掘り起こして食べる。有機栽培では一般的に使われる除草剤などは使えない。病害虫と害獣の戦いなのだ。圃場の草取りや、草払い機をつかった草刈り。太陽がじりじりと照りつける。草払い機の廃棄熱もたまらなかった。時たまに吹くそよ風が心地よく。自然の中で生きていることを実感できた。収穫が始まったのは、お盆を過ぎて肌寒いと感じる頃合いだった。
初めてサツマイモを収穫したときのことは、今でも鮮明に思い出せる。初めての定植、暑い中での草払い、長い時間と手間暇をかけて出来上がったものを忘れるはずもない。
鈴なりのさつまいもを見た時は、今までの苦労が報われた気がして、感動した。
あれから3年。そして、これから。
あの日から3年が経ち、今私は畑班から出荷・加工斑に移動した。出荷は畑の班とはまた違った忙しさだ。月単位、週単位での細かなスケジュールを作り、出荷日に間に合うように、さつまいもが足りるように、日数や数量を逆算してさつまいもを洗浄・選別を行う。数字の管理や出荷の段取りをとり、一歩一歩慎重に進めていく。
いまの私はおもに加工品の製造を担当している。加工品の種類は多岐にわたるが、私が一番気に入っているのは、収穫の際にでた規格外品をペーストにする作業だ。収穫の際にトラクターによって切れてしまったものや虫が食ったもの、黒斑病といった、青果物として出荷できないようなものを焼き芋にして、1mmの細かいフィルターを通したもので、糖度は40度を有にこえる。滑らかな舌触りと焼き芋の香ばしい風味が鼻を抜けるそのペーストは、一度食べると病みつきになる。
さつまいもひとつを作るためにどれだけの手間暇と時間が掛かっているのかを私は知っている。青果物と比べても味はなんら変わらないのに、規格外だからと撥ねられるのは心苦しい。アグリ・コーポレーションの栽培した有機さつまいもが、ひとつでも無駄にならないように、そして、たくさんの人に食べてもらうために、私は、これからもペーストを作り続ける。
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