
普段は特定の野菜を使うと決めているレシピでも、さつまいもに置き換えてみると、新しい味わいや食感が楽しめるだけでなく、料理のバリエーションも広がります。代用できるのは、ジャガイモやカボチャのように食感や風味が似ている野菜だけに限りません。ほんのりとした自然な甘みが特徴の果物の代わりとしても活用でき、意外な組み合わせから生まれる新たなおいしさを発見できます。今回は、さつまいもを使ってアレンジしても違和感なく楽しめるレシピを3つ紹介するので、ぜひ試してみてください。
代用の歴史が食の歴史
例えば、トマトはラテンアメリカからヨーロッパに持ち込まれた野菜であり、今では南欧料理に欠かせない食材となっています。しかし、トマトソースが広く使われる以前の時代、ヨーロッパの人々はどのような味付けで料理を楽しんでいたのか、と考えると興味深いものがあります。ラテンアメリカにコロンブスが到達したのが1492年であり、トマトがヨーロッパの食文化に取り入れられ始めたのは15〜16世紀になってからのことです。それまでは、トマトソースの代わりにワインビネガー(酢)を使って酸味を加えていました。興味深いことに、当時のトマトは現在のものよりもずっと酸味が強く、酢の代替として自然に取り入れられるようになったのです。こうして少しずつトマトが調味料として定着し、やがて料理の主役級の存在へと変化していきました。スペインでは今でもピクルスを作る際に、酢の代わりにトマトをすりおろして加えることがあり、仕上がりがよりマイルドでまろやかな味わいになると言われています。
さつまいも代用レシピ1:コロッケ
ジャガイモの代わりにさつまいもを使ったコロッケを作りました。ほんのり甘みがありながら、ホクホクとした食感が楽しめる一品です。インド料理のサモサが大好きなので、スパイスの風味をプラスするためにクミンを加えました。このひと工夫で、ほんのりエキゾチックな香りが広がり、奥行きのある味わいになります。そして、動物性の食材を使わずに仕上げた完全なビーガン仕様。植物性の素材だけとは思えないほど満足感があり、軽やかでありながら食べ応えも十分です。さらに、じっくり炒めて飴色になった玉ねぎを加えれば、甘みとコクが深まり、より一層おいしくなります。実はオムライスを作るときも、私はシンプルに玉ねぎだけを炒めたケチャップご飯を中身にしています。シンプルながらも奥深い味わいで、これだけでも十分満足感がありますが、もちろん好みに合わせてひき肉やハムを加えてアレンジするのもおすすめです。
材料(3人前)
- さつまいも400g
- 玉ねぎ 半個(みじん切り)
- オイル 大さじ1
- クミン(粉末)ひとつまみ
- 塩 小さじ2分の1
- パン粉
- 小麦粉
- 卵 1個
- 揚げ油
さつまいも代用コロッケの作り方
- さつまいもを茹でる、または蒸す(どちらでも可。電子レンジで柔らかくしてもOK。今回、私は、タジン鍋を使ってみました。)弱火で20分
- さつまいもを蒸している間に、みじん切りの玉ねぎを飴色に炒める
- さつまいもが柔らかくなったら、フォークで潰す
- 潰したさつまいもにクミン、塩、玉ねぎを混ぜ込む
- 6個に丸め軽く叩いて小判形に整える
- 小麦粉をまぶし、溶き卵、パン粉をつける(パン粉は硬くなったバゲットをおろし器ですりおろしてるので細かいですが、普通のパン粉で大丈夫です。)
- 揚げ油で揚げる
黒蜜をたっぷりとかけて仕上げました。スペインには、揚げたナスに黒蜜をかけて味わう伝統的な料理があり、そのアイデアをヒントに、さつまいもでアレンジしてみたものです。さつまいもの自然な甘みと、黒蜜のコクのある甘さが相性抜群で、シンプルながらも奥深い味わいに仕上がりました。表面をカリッと香ばしく仕上げることで、黒蜜のとろりとした食感が引き立ち、ひと口食べるごとに異なる食感が楽しめるのも魅力。揚げなすとはまた違った風味があり、どこか和の雰囲気も感じられる味わいに。
さつまいも代用レシピ2:リンゴケーキではなくさつまいもケーキ
ほのかに甘いという共通点をもつりんごとさつまいも。普段はりんごを使って作るレシピを、さつまいもに置き換えて試してみました。しっとりとした食感と自然な甘みが引き立ち、新しいおいしさを発見。作ってみて気づいたのは、さつまいもを使ったケーキが、大分県の郷土菓子である石垣饅頭にどこか似ていることです。懐かしさを感じる理由は、おそらく幼い頃から親しんできた味だから。母が大分県の出身だったこともあり、小さいころから手作りの石垣饅頭を食べる機会が多く、ふんわりとした生地の甘さや優しい味わいが記憶に残っています。土産屋で売られている石垣饅頭は、一つずつ個包装されていることが多いですが、母が作るものは大きな型で焼き上げ、食べるときに切り分けるスタイル。家庭ならではの温かみがあり、ふんわりとした生地を手でちぎって頬張るのが好きでした。大分県を含む九州地方は、古くから海外との交流が盛んだったこともあり、リンゴを使った焼き菓子の文化がどこかの時代に伝わっていたのかもしれません。そんな背景を考えながら、さつまいもケーキを味わうと、新しいものを作ったはずなのに、どこか懐かしい気持ちになりました。
材料
- さつまいも 200g
- 牛乳 100g
- 砂糖 100g
- バター 50g
- 卵 2個
- 小麦粉 100g
- シナモンシュガー 砂糖大さじ1にシナモン小さじ2分の1
- 型(20cmパイ皿)に塗るバター 適宜
さつまいも代用ケーキの作り方
- オーブンを170度に予熱
- 20cmのパイ皿にバターを塗る
- さつまいもを薄切りにする(火が通りやすいようにできるだけ薄切りに。スライサーを使ってもOK)
- 鍋に牛乳を入れ、火にかける(弱火)
- 鍋に砂糖・バターを加え、泡立て器でかき混ぜる
- 60度程度で火を止め、バターが溶けるまでかき混ぜる
- 鍋に卵を割り入れ、かき混ぜる
- 小麦粉を入れて、ダマがなくなるまでかき混ぜる
- パイ皿に鍋の中身を全部入れる
- パイ皿の生地の上に薄切りにしたさつまいもを並べる
- 全部のせたら軽く押して生地とさつまいもをなじませる
- シナモンシュガーを上から全体にかける(シナモンが苦手な場合は、ただのお砂糖だけでもOK)
- オーブンに入れて20分程焼く(さつまいもが柔らかくなるまで)
りんごを使ったお菓子は、冷やすことで甘みが引き締まり、爽やかな風味が際立つため、冷たい状態で食べるほうがおいしく感じられます。一方、さつまいもを使ったものは、冷めてももちろんおいしいですが、温かいうちに食べると、ほっくりとした食感がより際立ち、甘みがふわっと広がるのが魅力。オーブンで焼き上げたばかりのさつまいもケーキや、蒸したてのスイーツは、口に入れた瞬間に優しい甘さと香ばしさが広がり、また違った味わいが楽しめます。冷やしてしっとりさせてもおいしいですが、焼き立てや温め直したときの香りや食感も捨てがたく、そのままでも十分満足感が得られるのがさつまいもの良さかもしれません。
さつまいも代用レシピ3:さつまいものパテ
クラッカーや薄切りのパンにのせて楽しむカナッペ用のパテのようなものを、さつまいもを使って作ってみました。なめらかに仕上げたさつまいもに、ほんの少し塩気を加えることで甘さが引き立ち、素材の味をしっかりと感じられる仕上がりに。バターやオリーブオイルを混ぜるとコクが増し、ハーブやスパイスを加えれば香り豊かで奥行きのある味わいになります。ほんのり甘いだけでなく、組み合わせ次第でしっかりとした風味にもなるので、ワインのお供や軽食にもぴったり。カリッと焼いたバゲットやクラッカーと合わせると、食感のコントラストも楽しめます。ちょっとした前菜やおもてなし料理にもなり、意外なほど活躍する一品になりました。
材料
- さつまいも 200g
- 玉ねぎ(みじん切り)4分の1個分
- くるみ(みじん切り)30g
- 塩 少々
さつまいも代用パテの作り方
- さつまいもを茹でる、または蒸す
- みじん切りの玉ねぎを飴色に炒める
- 柔らかくなったさつまいもをフォークで潰す
- 潰したさつまいもに塩、玉ねぎ、くるみを混ぜ込む
基本的に、途中の工程まではコロッケと同じ手順で作るため、まとめて一緒に仕込んでおくと手間が省けて効率的。さつまいもを茹でたり蒸したりしてペースト状にする段階まで共通しているので、一度に多めに作っておけば、コロッケ用とパテ用に分けてアレンジしやすくなります。スパイスや調味料を加えるタイミングを変えれば、同じ素材から全く違った味わいの料理が生まれるのも面白いところ。時間のあるときに仕込んでおけば、食べたいときにすぐ仕上げることができ、忙しい日の食事やちょっとしたおつまみ作りにも役立ちます。
さつまいもをもっと食卓に!
焼き芋はとてもおいしく、シンプルながら素材の甘みを存分に味わえる魅力的な食べ方ですが、さつまいもはそれだけでなく、もっと幅広い料理に取り入れて楽しみたい食材です。栄養価が非常に高く、ジャガイモやリンゴと比べてもビタミンやミネラルが豊富に含まれており、さらにカロテンも含まれているため、美容や健康を意識する人にもぴったり。さまざまなアレンジができるのも魅力のひとつで、例えば、薄切りにしたジャガイモとさつまいもを一緒に揚げることで、2色のチップスが楽しめます。見た目も華やかで、パリッとした食感とそれぞれの甘みや風味の違いが楽しく、シンプルながら満足感のある一品に仕上がります。ちょっとしたおやつとしてはもちろん、パーティーの軽食やおつまみとしても喜ばれそう。塩やハーブを振りかけるだけで味の変化を楽しめるので、いろいろなバリエーションを試すのも面白いかもしれません。