秋の味覚の代表格、さつまいも。ご家庭の畑やプランターで育ててみたいと考えたことはありませんか。実はさつまいもは、いくつかのポイントを押さえるだけで、初心者の方でも驚くほど手軽に、甘くて美味しい芋をたくさん収穫できる、家庭菜園にぴったりの野菜です。この記事を読めば、栽培の準備から苗の植え付け、日々の管理、そして収穫と長期保存のコツまで、一連の流れをすべて理解できます。美味しいさつまいも栽培の成功は、最初の「土作り」と「植え方」が鍵を握ります。その理由と具体的な手順を丁寧に解説しますので、この秋、自家製の焼き芋を味わう喜びをぜひ体験してください。
さつまいも栽培を始める前に知っておきたいこと
家庭菜園は、自分で食べるものを育てる喜びはもちろんですが、何より土に触れ、作物の成長を日々見守る時間は、私たちに穏やかな気持ちをもたらしてくれます。特にさつまいもは、比較的少ない手間で育てることができ、秋にはたくさんの収穫が期待できるため、初心者の方にも心からおすすめできる野菜の一つです。植え付けから収穫まで、基本的な流れといくつかのポイントを事前に知っておくだけで、栽培はぐっとスムーズに進みます。ここでは、さつまいも作りを始める第一歩として、知っておきたい基礎知識をご紹介します。
さつまいも栽培の年間スケジュール

さつまいも栽培は、春に苗を植え付け、秋に収穫するのが基本的な流れです。栽培期間は約5ヶ月から6ヶ月ほど。私たちの畑でも、毎年ゴールデンウィークを過ぎたあたりから植え付けの準備を始め、夏の間にぐんぐん育つツルを管理し、秋風が心地よくなる頃に収穫の時期を迎えます。地域やその年の気候によって多少のずれはありますが、大まかな流れを掴んでおくと計画が立てやすくなるでしょう。
| 時期 | 主な作業内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 5月上旬~6月下旬 | 苗の植え付け | 霜の心配がなくなり、地温が十分に上がってから植え付けます。 遅霜の心配がある場合は、マルチシートを活用すると安心です。 |
| 7月~9月 | 栽培管理(水やり・つる返し) | 基本的に乾燥に強いですが、真夏に晴天が続く場合は水やりをします。 ツルが伸びてきたら「つる返し」を行い、芋に栄養が集中するようにします。 |
| 9月下旬~11月上旬 | 収穫 | 植え付けから120日~150日程度が収穫の目安です。 霜が降りる前に収穫を終えるのが理想的です。 |
| 収穫後 | 追熟・保存 | 収穫した芋は、風通しの良い日陰で2週間ほど追熟させることで甘みが増します。 その後、新聞紙に包んで冷暗所で保存します。 |
家庭菜園向けさつまいもの人気品種
さつまいもと一言で言っても、その品種は実に多様です。食感もホクホクしたものから、しっとり、ねっとり系まで様々で、どの品種を選ぶかによって味わいや育てる楽しみも変わってきます。ここでは、家庭菜園でも育てやすく、特に人気の高い代表的な品種を食感のタイプ別にご紹介します。ご自身の好みに合わせて、ぴったりの品種を見つけてみてください。
ホクホク食感の定番品種 紅あずま

「紅あずま」は、昔ながらの焼き芋を思わせる、どこか懐かしいホクホクとした食感が魅力の品種です。 関東地方を中心に広く親しまれており、スーパーなどでもよく見かける定番中の定番と言えるでしょう。 甘さはしっかりと感じられますが、後味は比較的あっさりしているため、天ぷらや大学芋、煮物といった料理にも幅広く活用できます。 病気にも強く、生育が早いため、まさに家庭菜園の入門編にぴったりの品種です。
しっとり甘い新品種 シルクスイート

2012年に登場した比較的新しい品種である「シルクスイート」は、その名の通り、絹のようになめらかな舌触りが最大の特徴です。 収穫してすぐは少し粉質ですが、貯蔵することでしっとりとした食感に変わり、甘みも増していきます。 焼き芋にすると、その滑らかさと上品な甘さが際立ち、まるでスイーツを食べているかのような満足感が得られます。水分を多く含んだその味わいは、一度食べたら忘れられません。
ねっとり系の代表格 安納芋

鹿児島県の種子島が発祥の「安納芋」は、蜜のように甘く、ねっとりとしたクリーミーな食感で一躍人気となった品種です。 加熱すると中から蜜があふれ出すほど糖度が高く、その濃厚な味わいは他のさつまいもとは一線を画します。 栽培は他の品種に比べて少しだけ手間がかかることもありますが、家庭菜園でも十分に育てることが可能です。 収穫後にじっくりと追熟させることで、その甘さを最大限に引き出すことができます。
畑とプランターでの栽培方法の違い

さつまいもは畑がないと育てられないと思われがちですが、実はプランターを使えばベランダなどの省スペースでも手軽に栽培を楽しむことができます。 もちろん、それぞれにメリットと注意点がありますので、ご自身の環境に合わせて栽培方法を選ぶことが大切です。ここでは、畑での栽培とプランターでの栽培の主な違いを整理しました。
| 項目 | 畑での栽培 | プランターでの栽培 |
|---|---|---|
| スペース | 広いスペースが必要。ツルが伸びる場所も考慮する。 | ベランダなどの限られたスペースでも可能。 |
| 土の量と質 | 多くの土量が必要。土作りから始められる。 | 市販の培養土が使え、手軽に始められる。深さのある大型プランターが必要。 |
| 収穫量 | たくさんの大きな芋の収穫が期待できる。 | 畑に比べると収穫量は少なく、芋も小ぶりになりやすい。 |
| 管理の手軽さ | 雑草対策や土壌管理が必要。 | 水やり管理が中心。土が乾燥しやすいため、水やりの頻度は畑より多くなる。 |
畑でのびのびと育てれば、お店で売っているような立派なさつまいもをたくさん収穫する夢が広がります。一方で、プランター栽培は、土に触れる機会を手軽に持ちたい方や、お子さんと一緒に作物の成長を楽しみたい方には最適です。ベランダなどの限られた空間でも、手軽にさつまいも作りを楽しめるのが最大の魅力と言えるでしょう。
さつまいも栽培の準備 土作りと苗選び
美味しいさつまいもを育てるための第一歩は、畑やプランターの準備から始まります。さつまいもは比較的育てやすい野菜ですが、ちょっとした下準備で収穫の量や質が大きく変わってきます。ここでは、さつまいもがのびのびと育つための土作りと、収穫の成功を左右する良い苗の選び方について、丁寧に解説していきます。
栽培に適した土作りと畝の立て方

さつまいもは、水はけの良いふかふかとした土を好みます。 粘土質の重い土壌の場合は、堆肥などを加えて土壌改良を心がけましょう。また、さつまいもは酸性の土壌を好み、pH5.5~6.5程度が栽培に適しています。 多くの野菜と違って、肥料のやりすぎは禁物です。特に窒素成分が多いと、葉や茎ばかりが茂ってしまい、肝心のお芋が大きくならない「つるぼけ」という状態になってしまうので注意が必要です。 野菜の跡地など、肥料分が残っている畑では元肥は不要な場合もあります。
土の準備は植え付けの2週間ほど前から始めます。まず苦土石灰を畑全体にまいてよく耕し、その1週間後に堆肥や窒素成分の少ない専用肥料などを施します。そして、畝(うね)を立てますが、ここでのポイントは水はけを良くするために「高畝」にすることです。 幅60〜70cm、高さ30cm程度を目安に、かまぼこ型に土を盛り上げましょう。 こうすることで、土の中に空気が入りやすくなり、さつまいもが大きく育つスペースを確保できます。
プランター栽培で準備するもの

畑がない方でも、プランターを使えばベランダなどで手軽にさつまいも栽培に挑戦できます。 プランター栽培は畑と比べて「つるぼけ」になりにくいという利点もあります。 さつまいもを大きく育てるためには、いくつかポイントがありますので、必要なものを下の表にまとめました。
| 準備するもの | 選び方のポイント・備考 |
|---|---|
| プランター | 深さが30cm以上ある大型のものを選びましょう。容量としては25L以上が目安です。お芋が育つスペースをしっかり確保することが大切です。 |
| 培養土 | 市販の野菜用培養土で問題ありません。水はけが良いものがおすすめです。元肥が含まれているタイプを選ぶと手軽です。 |
| 鉢底石 | プランターの底に敷き詰めて使います。土の水はけをさらに良くし、根腐れを防ぐ重要な役割があります。 |
| 支柱・ネット | 必須ではありませんが、伸びてくるつるを誘引するためにあると便利です。限られたスペースを有効に活用できます。 |
美味しいさつまいもが育つ良い苗の選び方

土の準備と並行して、植え付ける苗を選びましょう。良い苗を選ぶことは、美味しいさつまいもをたくさん収穫するための最も重要なポイントの一つと言っても過言ではありません。園芸店やホームセンターで苗を選ぶ際には、以下の点をチェックしてみてください。
まず注目したいのは、茎の太さと節と節の間隔です。 茎がひょろひょろと細いものよりも、がっしりと太いものを選びましょう。そして、節と節の間が間延びしておらず、キュッと詰まっているものが理想的です。このような苗は、植え付け後も力強く成長してくれます。
次に葉の状態です。葉の色が濃い緑色で、厚みがあり生き生きとしているものが元気な証拠です。 黄色くなっていたり、病気や害虫の被害が見られたりするものは避けるのが賢明です。最後に、ポットから抜いたときに根がしっかりと張っているかも確認できるとさらに良いでしょう。これらのポイントを押さえて、秋の収穫が楽しみになるような、元気いっぱいの苗を選んでください。
さつまいもの植え付け時期と方法
さつまいも栽培の成否を分ける、最も重要な工程が「植え付け」です。適切な時期に正しい方法で植え付けることで、苗はスムーズに根付き、その後の生育が格段に良くなります。ここでは、長年の経験から導き出した、植え付けの最適なタイミングと、それぞれの栽培スタイルに合わせた植え方のコツを詳しく解説していきます。
さつまいもの植え付けに最適な時期
さつまいもの苗を植え付けるのに最適な時期は、一般的に5月中旬から6月下旬頃とされています。 私たちの畑でも、この期間に作業が集中します。ただし、暦の上での日付よりも大切なのが「地温」です。さつまいもは熱帯性の植物なので、地中の温度が18℃以上にならないと、苗がうまく根付きません。 逆に、焦って早く植えすぎると、苗が弱ってしまい、最悪の場合枯れてしまうこともあります。
桜が散り、八重桜が満開になる頃、日中の日差しが暖かく感じられるようになったら、そろそろ植え付けの準備を始める合図です。地域によっても差があり、九州などの暖かい地域では4月下旬から、東北では6月上旬以降が目安となります。 梅雨入り前の、土が適度に湿っている晴れた日を選んで植え付けるのが理想的です。
苗の植え方の種類とそれぞれのコツ
さつまいもの植え方には、いくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。 どの方法を選ぶかによって、収穫できる芋の数や大きさが変わってくるため、ご自身の畑の広さや、どんなさつまいもを育てたいかに合わせて選ぶのが良いでしょう。ここでは、家庭菜園で主流となる代表的な植え方を2つ、そのコツと合わせてご紹介します。
| 植え方 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 船底植え(水平植え) | 苗を地面と水平になるように浅く植える方法。 | 芋の数が多くなりやすく、大きさも揃いやすい。収穫量重視の場合におすすめ。 | 浅く植えるため乾燥にやや弱い。長い苗が必要になる。 |
| 斜め植え | 苗を斜め45度くらいの角度で土に挿し込む方法。 | 手軽で植え付けが簡単。芋の数は少なめだが、一つ一つが大きくなりやすい。 | 船底植えに比べると収穫量は少なくなる傾向がある。 |
収穫量が多い船底植え(水平植え)

たくさんのさつまいもを収穫したい、という方に最もおすすめなのがこの「船底植え」です。水平植えとも呼ばれ、その名の通り、苗を地面に対して水平に、まるで船の底のような形で浅く植え付ける方法です。 さつまいもは、土に埋まったつるの「節」という部分から根を出し、それが芋へと成長します。船底植えは、土に埋まる節の数が最も多くなるため、結果的にたくさんの芋が実るというわけです。
植え付けのコツは、深さ5cmから10cmほどの浅い溝を掘り、そこに苗を寝かせるように置くことです。 このとき、苗の先端(成長点)から2~3節だけを地上に出し、残りの節がすべて土に埋まるように優しく土をかぶせます。 株と株の間隔(株間)は30cmから40cmほど空けるのが一般的です。 植え付け後は、苗が土としっかりと密着するように、株元を手で軽く押さえてから、たっぷりと水を与えてください。
手軽にできる斜め植え

「斜め植え」は、その手軽さから初心者の方や、プランターでの栽培にも向いている植え方です。 やり方はとても簡単で、支柱などの棒で畝に対して30度から45度くらいの角度で穴を開け、そこに苗をスッと挿し込むだけ。 この方法だと、土の中に埋まる節の数は船底植えよりも少なくなりますが、その分、栄養が集中しやすく、数は少なくとも形の良い、比較的大きな芋が育ちやすいという特徴があります。
斜め植えのコツは、苗の長さの3分の2程度が土に埋まるように、しっかりと深く挿し込むことです。地上には葉が3~4枚出るくらいが目安となります。船底植えと同様に、植え付けた後は株元を軽く押さえて、たっぷりと水やりをすることを忘れないでください。この最初の水やりが、苗の活着を促す重要な一手間になります。
さつまいも栽培中の管理と手入れ
苗の植え付けが終われば、あとは秋の収穫を待つばかり、というわけにはいきません。私たちの仕事場である畑と同じで、ここからのひと手間が、芋の大きさと味を左右する大切な仕事になります。さつまいもは非常に生命力が強く、やせた土地でも育つたくましい野菜ですが、いくつかのポイントを押さえて管理することで、その成長をしっかりとサポートできるのです。
水やりの頻度とタイミング

さつまいもは乾燥に強い性質を持っているため、畑での栽培の場合、基本的に水やりは自然の雨に任せてしまって大丈夫です。 ただ、植え付け後の約1週間から10日間は、苗が土に根付くための大切な期間。 この時期に土がカラカラに乾いているようであれば、朝の涼しい時間帯に水を与えてください。 根が活着すれば、真夏に何週間も雨が降らないような日が続かない限り、水やりの必要はほとんどありません。
一方でプランター栽培は、畑と比べて土が乾燥しやすいため、少し注意が必要です。土の表面が白っぽく乾いていたら、鉢底から水が流れ出るくらいたっぷりと与えるのが基本のサインです。 特に日差しが強くなる夏場は、土の乾き具合をこまめに確認し、必要であれば朝夕に水やりを行いましょう。
肥料は不要?追肥のポイント
「さつまいもに肥料は不要」とよく言われますが、これは肥料、特に窒素成分が多すぎると、葉や茎ばかりが青々と茂ってしまい、肝心の芋が大きくならない「つるボケ」という現象を引き起こしやすいためです。 植え付け前の土作りで元肥を適切に施していれば、基本的に追肥は必要ありません。
ただし、葉全体の色が薄く黄色っぽくなるなど、明らかに栄養が足りていない様子の場合は追肥を検討します。その際は、窒素成分の多い肥料は避け、芋の肥大を助けるカリウムを主体とした肥料を選ぶことが重要です。 追肥を行う時期は、植え付けから45日から60日後が目安。株元から少し離れた場所にぱらぱらとまき、軽く土に混ぜ込むように施しましょう。
収穫量を増やす「つる返し」のやり方

夏になると、さつまいものつるは驚くほどの勢いで地面を覆い尽くしていきます。この時、つるの節々から「不定根」と呼ばれる根を地面に伸ばし、そこからも栄養を吸収しようとします。 これを放っておくと、本来大きく育てたい株元の芋へ行くはずの栄養が分散してしまいます。 それを防ぎ、栄養を株元の芋に集中させるための作業が「つる返し」です。
つる返しのやり方は至ってシンプル。伸びたつるを持ち上げて、地面に張り付いた根をバリバリと引きはがすだけです。 この作業を定期的に行うことで、つるボケを防ぎ、芋の肥大を促すことができます。
| 作業時期 | 作業内容 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 植え付け後1.5ヶ月〜2ヶ月頃から | 伸びたつるを持ち上げ、地面から不定根を引きはがす。 | 栄養の分散を防ぎ、株元の芋の肥大を促進する。 |
| 収穫の1ヶ月前頃まで | 月に1〜2回程度、つるの伸び具合を見ながら定期的に行う。 | つるボケを抑制し、品質の良い芋を育てる。 |
ただし、近年では品種改良が進み、つる返しが不要な品種も増えてきています。 それでも、家庭菜園のような限られたスペースでは、伸びすぎたつるを整理し、風通しを良くする意味でも、このひと手間を加えてみる価値は十分にあります。
さつまいも栽培で注意すべき病気と害虫対策
さつまいもは比較的育てやすい野菜ですが、それでもいくつかの病気や害虫には注意が必要です。丹精込めて育てたさつまいもを収穫の喜びにつなげるためにも、ここでは代表的な病気と害虫、そしてその対策についてしっかりと確認していきましょう。早期発見と適切な対応が、美味しいさつまいもを守る鍵となります。
さつまいもがかかりやすい病気と予防法
さつまいもの病気は、主に土の中に潜むカビ(糸状菌)が原因で発生することが多いですね。一度発生すると畑に菌が残ってしまうこともあり、予防が何よりも大切になります。特に注意したい病気をいくつか見ていきましょう。
| 病名 | 主な症状 | 原因と対策 |
|---|---|---|
| つる割病 | 生育初期に葉が黄色くなり、株元の茎(つる)が縦に裂けてきます。病気が進行すると株全体が枯れてしまいます。 | 土壌で感染する病気で、連作をすると発生しやすくなります。同じ場所でさつまいもを続けて栽培するのは避け、2〜3年はウリ科やマメ科など他の野菜を育てるようにしましょう。 抵抗性のある品種を選ぶことも有効な対策です。 |
| 基腐病(もとぐされびょう) | 地際部の茎が黒く変色し、葉が黄色や紫色になって枯れていきます。収穫した芋も首側から腐敗することが特徴で、貯蔵中にも被害が広がることがあります。 | 比較的新しい病気で、カビ(糸状菌)の一種が原因です。病原菌に感染していない健全な苗を使用することが最も重要です。 また、畑の水はけを良くし、雨水が溜まらないように管理することも発生を抑えるポイントです。 |
| 黒斑病(こくはんびょう) | 芋の表面に緑がかった黒色の斑点ができ、少し窪んできます。症状が進むと内部まで黒く腐敗してしまう、厄介な病気です。 | これも土の中にいるカビが原因で、収穫時の傷などから菌が侵入します。ハリガネムシやコガネムシの幼虫による食害の跡が感染経路になりやすいため、害虫対策も同時に行うことが大切です。収穫の際は芋を傷つけないよう丁寧に扱いましょう。 |
栽培初期に気をつけたい害虫とその対策

植え付け後のデリケートな時期や、芋が大きく育っていく過程で、様々な害虫がさつまいもを狙っています。葉を食べるものから、土の中で芋そのものを食害するものまで様々です。主な害虫とその対策をまとめました。
| 害虫名 | 被害の様子 | 主な対策 |
|---|---|---|
| コガネムシ(幼虫) | 土の中で芋の表面をかじるように食害します。収穫した芋の表面に、浅く広い食害痕が残ります。 | 未熟な堆肥を施すと成虫が産卵しやすくなるため、完熟堆肥を使うようにしましょう。 植え付け前に土をよく耕し、幼虫を見つけたら取り除くのも効果的です。コンパニオンプランツとして赤シソを一緒に植えると、被害を抑える効果が期待できるという報告もあります。 |
| ヨトウムシ類(ハスモンヨトウなど) | 夜間に活動するガの幼虫で、葉を食害します。大発生すると、葉脈を残して葉を食べ尽くされてしまうこともあります。 | 若齢幼虫は葉の裏に群生していることが多いので、こまめに葉の裏をチェックし、見つけ次第葉ごと取り除いて駆除します。 成長すると薬剤が効きにくくなるため、早期発見・早期駆除が重要です。 |
| アブラムシ類 | 新芽や葉の裏にびっしりと群生し、汁を吸って株を弱らせます。ウイルス病を媒介することもあるので注意が必要です。 | 発生初期であれば、粘着テープなどで取り除いたり、牛乳や石鹸水をスプレーしたりする方法があります。天敵であるテントウムシを呼び込むのも一つの手です。数が増えてしまった場合は、適用のある薬剤を使用することも検討しましょう。 |
| ネコブセンチュウ | 根に侵入し、こぶ状の病変を作ります。これにより生育が悪くなり、芋の形が悪くなったり、収穫量が減ったりします。 | 連作を避けることが基本的な対策です。 被害が出た畑では、マリーゴールドなどを植えると、土の中の密度を減らす効果があると言われています。抵抗性のある作物との輪作も有効です。 |
さつまいもの収穫時期の見極め方と保存方法
丹精込めて育ててきたさつまいも、いよいよ収穫の時がやってきます。さつまいもは収穫するタイミングと、その後の保存方法で美味しさが大きく変わる野菜です。ここでは、土の中で育ったお芋の収穫サインを見極める方法から、掘りたての美味しさを長く楽しむためのコツまで、一つひとつ丁寧にご紹介します。
収穫のサインとタイミング

さつまいもの収穫時期は、一般的に苗の植え付けから約110日から150日後が目安とされています。 品種やその年の気候によって多少前後しますが、地上部の葉や茎の変化が、収穫のタイミングを教えてくれる大切なサインとなります。
畑をじっくりと観察していると、夏の間、青々と茂っていた下の葉から徐々に黄色く色づき始め、やがて枯れてくるのがわかります。 これが、地中の芋に栄養が十分に行き渡った合図です。 しかし、全ての葉が枯れるまで待つ必要はありません。収穫が遅すぎると、芋が大きくなりすぎて味が落ちたり、形が悪くなったりすることがあるからです。
最終的な判断は「試し掘り」で行うのが最も確実です。 いくつかある株のうち、生育の良さそうな株を一つ選んで、芋の大きさを確認してみましょう。 ちょうど良い大きさに育っていれば、全ての株が収穫適期を迎えていると判断できます。まだ小さいようであれば、土を戻してもう1〜2週間ほど待ってみましょう。
収穫作業は、本格的な冬が訪れ、霜が降りる前には必ず終えるようにしてください。 さつまいもは寒さに弱く、霜に当たると芋が傷んでしまい、長期保存ができなくなってしまいます。
芋を傷つけずに収穫する手順

収穫は、土が乾いている晴れた日に行うのがおすすめです。 土が濡れていると芋が掘りにくいだけでなく、収穫した芋が腐りやすくなる原因にもなります。
まず、収穫の1週間ほど前に、地際に茂っているつるを鎌などで刈り取っておくと、当日の作業が格段にしやすくなります。 刈り取ったつるは、畑の隅に集めておけば、良質な堆肥の材料としても活用できます。
いよいよ芋を掘り出します。芋を傷つけないように、株元から少し離れた場所にスコップや鍬を大きく入れ、土ごと持ち上げるように掘り起こすのがコツです。 株の真下に道具を入れてしまうと、せっかく大きく育った芋を傷つけてしまう恐れがあるので注意しましょう。掘り上げた芋は、つるから一つひとつ丁寧に取り外していきます。
収穫したさつまいもは、土がついたまま、畑の上で半日ほど天日干しして表面を乾燥させます。 このひと手間で、余分な水分が飛んで貯蔵性が高まります。 水洗いは厳禁です。さつまいもは水分に非常に弱く、洗ってしまうとそこから傷み始めてしまうので、絶対にやめましょう。
収穫後の追熟と長期保存のコツ

実は、掘りたてのさつまいもは、本来の甘さをまだ隠し持っています。収穫後すぐに食べるのではなく、「追熟」というひと手間を加えることで、でんぷんが糖に変わり、驚くほど甘く、しっとりとした食感に変化するのです。
プロの農家では「キュアリング」と呼ばれる、高温多湿の環境で貯蔵する特別な処理を行いますが、ご家庭でもそれに近い環境を作ることで、美味しく追熟させることができます。 収穫して乾燥させたさつまいもを1本ずつ新聞紙で包み、段ボール箱に入れて、風通しの良い冷暗所で保存します。 最低でも2週間、できれば1ヶ月から2ヶ月ほど寝かせることで、甘みが最大限に引き出されます。
さつまいもの長期保存に適した環境は、意外とデリケートです。以下の表を参考に、ご家庭で最適な場所を探してみてください。
| 項目 | 最適な条件 | ご家庭での保存場所の例 |
|---|---|---|
| 温度 | 13℃~15℃前後 | 冬場の暖房が効いていない玄関や北側の部屋など |
| 湿度 | 85%~90%前後 | 新聞紙で包み、段ボールに入れることで適度な湿度を保つ |
| 注意点 | 低温と乾燥に弱い | 冷蔵庫での保存は低温障害を起こすため避ける |
保存している間も、時々段ボールの中を確認し、傷んだりカビが生えたりしているものがないかチェックしましょう。 適切な環境で保存すれば、春先まで美味しくさつまいもを楽しむことができます。
まとめ

さつまいも栽培の魅力は、なんといってもその手軽さにあるのではないでしょうか。この記事では、土作りや苗選びといった準備段階から、収穫量を増やす「つる返し」、そして収穫後の追熟まで、一連の流れを詳しくご紹介しました。さつまいもは基本的に肥料を必要としないため管理も比較的容易ですが、つる返しのようなひと手間が、秋の豊かな実りにつながります。手順さえしっかり押さえれば、初心者の方でも、紅あずまのようなホクホク系から安納芋のようなねっとり系まで、お店に並ぶような立派なさつまいもを育てることができるはずです。ぜひご家庭で、土に触れる喜びと収穫の感動を味わってみてください。








