近ごろ、あちこちで “さつまいも” を見かけることが増えました。テレビでもWebでも特集が組まれ、専門店やスイーツショップが次々とオープンし、新しい品種が次々と生まれるほどの盛り上がりです。以前は耳にしたことがなかった名前も、気がつけば日常的に見かけるほど広まり、その勢いはまだまだ続いていきそうな雰囲気があります。
いま日本で栽培されているさつまいもはおよそ60種類。ひとつの野菜と思いきや、品種が違えば甘さの広がり方や口にしたときの質感も大きく変わり、まるで別の食べ物のように表情が変わるのが面白いところです。そんな多彩な魅力を持つ品種のなかから、日常でよく見かける定番のものを中心に、特徴を丁寧にまとめていきます。
もっとおいしいさつまいもを知りたい方、気に入る一本を見つけたい方には、きっと新しい発見があるはずです。読み進めるほどに、今度はどの芋を焼こうか…そんな楽しみがふわりとふくらんでくるかもしれません。
定番中の定番!ほくほく系のさつまいも
どこか懐かしさを感じる“ほくほく系”のさつまいも。ひと口かじると軽やかにほぐれていく食感は、まさに昔ながらのさつまいもらしさそのものです。そんな魅力を持つ品種の中から、ここでは特に親しまれている2つを取り上げます。ほくほく系は、焼きいもはもちろん、天ぷらや煮物にもぴったりで、料理を選ばず活躍してくれるのが嬉しいところ。どんな調理法でも味わいが素直に引き立ち、食卓にそっと寄り添ってくれる万能タイプのさつまいもです。
これからご紹介する2つの品種は、それぞれ個性を持ちながらも、どこか共通する素朴な美味しさが魅力。読み進めながら「今度これで作ってみようかな」と、ふわっと料理のイメージが浮かんでくるかもしれません。
- 鳴門金時
- 紅あずま
鳴門金時(なると金時)

徳島県を代表するさつまいもといえば、やはり「鳴門金時」。
西日本で長く親しまれてきた「高系14号」をもとに生まれた品種で、土地の風をまとったような素朴な香りと、やさしい甘さが特徴です。店頭でひときわ目を引く鮮やかな紅色の皮は、まるで宝石のように艶やかで、割った瞬間にあらわれるクリーム色の果肉との対比がとても美しく、手に取っただけでちょっと嬉しくなってしまう存在です。
火を通すと果肉はほっくりとほどけ、栗を思わせる上品な甘みがじんわりと広がります。粉質のしっかりした食感は、焼きいもにすると素直な黄金色へと変わり、香りもふわっと立ちのぼって、昔食べた懐かしい焼きいもの記憶がよみがえるようです。最近の“蜜がたっぷり”というタイプとは対照的で、ほくほくとした王道のおいしさがしみじみ味わえるのが魅力。
さっと蒸しても、天ぷらにしても、煮物にしても、それぞれの料理にすっと寄り添ってくれる鳴門金時。口にするたびに、「やっぱりこの味が好きだな」と思わせてくれる、そんな温かみのある一品です。
紅あずま

関東でおなじみのさつまいもといえば、「紅あずま」。
千葉県や茨城県を中心に栽培され、スーパーでもよく見かけることから、日常の食卓に最も溶け込んでいる品種といっても大げさではありません。あっさりとした甘さが心地よく、大学いもや天ぷらなど、家庭の定番料理ともすんなり相性が良いのが愛され続ける理由です。
手に取るとまず目を引くのが、ほんのり紫みを帯びた深い紅色の皮。その中には、黄色くて粉質のやわらかな果肉がしっかりと詰まっています。繊維が少ないため、焼いたり蒸したりするとほろっとほどけて、舌の上ですっと溶けるようななめらかさが広がります。派手な甘さではなく、じんわりと寄り添ってくるような味わいが、どこか落ち着いた印象を与えてくれます。
一番おいしい時期は12月〜2月。
貯蔵性があまり高くないため、旬を過ぎると店頭で見かける機会がぐっと減ってしまいます。もし市場に並んでいる姿を見つけたら、その時こそが手に入れるチャンス。季節の移ろいとともに味わう紅あずまは、冬の楽しみをそっと感じさせてくれます。
ダントツ人気!ねっとり系のさつまいも
ここ数年、特に注目を集めているのが“ねっとり系”のさつまいも。ひと口食べると、とろりとした舌ざわりと濃密な甘さが広がり、まるでスイーツのような満足感が得られるタイプです。しっかり火を通すことで甘みがぎゅっと濃縮され、焼きいもにした瞬間の香りや蜜の滴り方まで、思わず見とれてしまうほど。
このあとご紹介する2つの品種は、その中でも特に人気が高く、多くのファンを引き寄せる存在です。ひとつひとつ個性が異なりながらも、どちらも濃厚な甘さとクリーミーな食感が魅力で、寒い季節の楽しみがひとつ増えたように感じられます。
スイーツのような焼きいもを味わいたい方にぴったりのラインナップ。ゆっくり読んでいくうちに、「今日はこれを焼いてみようかな」と心がふわっと動き出すかもしれません。
- 安納芋
- 紅はるか
安納芋

さつまいもブームの火付け役といえば、やはり「安納芋」。
鹿児島県・種子島の温かな気候で育つこの品種は、水分をたっぷり含んだとろける質感が特徴で、ひと口食べただけで“今までのさつまいもとは違う”と感じさせる存在です。とりわけ魅力的なのが、切った瞬間にあふれ出しそうなほどの蜜。じんわり広がる甘さはまるでスイーツのようで、まさにさつまいもの概念を塗り替えたと言われるほど、多くの人を虜にしてきました。
収穫したあとすぐに食べられるわけではなく、2〜3週間ほど静かに寝かせることで糖度がぐっと上がり、味が深まっていきます。 この“熟成期間”こそ、安納芋のおいしさを引き出すための大切な時間。生のままでも甘みがあるのに、火を入れるとさらに糖度が高まり、とろりと濃厚な味わいへと変化します。
じっくり焼き上げたときの蜜の香ばしさは、冬の楽しみをひとつ増やしてくれるような特別感があります。濃厚でねっとりとした甘さをしっかり楽しみたい方にぴったりの品種です。
紅はるか

「どの品種より“はるか”に甘く」という想いから生まれたのが、人気者の「紅はるか」。
安納芋に並ぶほどの強い甘さを持ちながら、ほくほくとした昔ながらの食感もほどよく感じられるため、ねっとり系とほくほく系の良いところを合わせ持つような、ちょっと贅沢な味わいが楽しめます。糖度の高さに加えて口当たりが軽やかなので、ひと口食べると自然と手が伸びてしまうような魅力があります。
掘りたての段階では甘さがまだ控えめですが、時間をかけてじっくり貯蔵することで甘みがぐっと深まり、数か月の熟成を経ると濃厚な味わいへと変化していきます。 この“育つ甘さ”を楽しめるのも紅はるかならでは。焼きいもにしたときの形の美しさも印象的で、割った瞬間に立ちのぼる香りや、ほっくりした黄色い果肉の見た目まで、思わず写真に収めたくなるほどです。
強い甘みと上品な食感のバランスを求める方にぴったりの一本。焼きいもにしてゆっくり味わうと、紅はるか特有のやさしい甘さが心にふわりと広がっていきます。
見た目がキュート!カラフルなさつまいも
さつまいもといえば、つやのある紅色の皮に、ほっくりとした黄色い果肉。多くの人が思い浮かべるのは、そんな“王道の色合い”かもしれません。けれど、実はさつまいもの世界はそれだけでは語りきれないほど奥深く、色とりどりの品種が存在しています。紫やオレンジなど、思わず手に取りたくなるような鮮やかな色合いのものもあり、料理に使うと食卓がぱっと華やぐのも魅力です。
ここでは、見た目から心がくすぐられるような、カラフルでキュートな2つの品種を取り上げます。ひとつひとつに個性があり、切った瞬間に広がる色の美しさはもちろんのこと、味わいにもそれぞれ違った楽しさがあります。読み進めるほどに、「今日はどんな料理にしようかな」とワクワクしてしまうような、そんな色彩豊かなさつまいもの魅力を感じてみてください。
- アヤコマチ
- 種子島紫
アヤコマチ

ひと目見ただけで気分がぱっと明るくなる、鮮やかなオレンジ色の果肉をもつ「アヤコマチ」。
切った瞬間に広がるその色合いは、まるでカボチャのような温かみがあり、思わず手を止めて見入ってしまうほどです。この美しい色の正体は、カボチャと同じβカロテン。健やかな毎日を支える栄養として知られており、抗酸化が期待できるといわれているため、食卓にのぼるだけで少し嬉しい気持ちになります。
アヤコマチの魅力は、加熱しても冷めても色がくすまないこと。調理前とほとんど変わらない鮮やかさを保ってくれるので、料理の仕上がりがぐっと華やぎます。さらに、冷めても甘みがしっかり残るため、お弁当やスイーツ作りにも重宝される存在です。スイートポテトやモンブランに仕立てると、オレンジ色がそのまま映え、見た目のかわいらしさとやさしい甘さがふんわり調和します。彩りとおいしさをどちらも楽しみたい時に手に取りたくなる、そんな魅力たっぷりの品種です。
種子島紫

「種子島紫」は、その名の通り、種子島で昔から受け継がれてきた歴史あるさつまいもです。
外側の皮はやわらかな白色なのに、切った瞬間にあらわれるのは深く鮮やかな紫色の果肉。そのコントラストがとても印象的で、火を通すと色味がさらに冴えわたり、思わず見とれてしまうほど美しく変化します。
紫いもに多い成分であるアントシアニンも含まれており、健やかな日常のサポートが期待できると言われている点も嬉しいところです。鮮やかな色味だけでなく、味にもやさしい甘さがあり、見た目と風味の両方を楽しめます。甘い紫色として知られる種子島紫は、ほどよくねっとりとした口あたりが特徴的。ペーストにしても色がしっかり映えるため、スイーツ作りにもよく使われています。紫色の美しさと心地よい甘みが相まって、仕上がりがぐっと華やぐ一品です。
食べ比べてお気に入りを見つけよう
気になる一本は見つかったでしょうか。それぞれの品種が違った表情を持っていて、どれを手に取っても楽しさがあり、さつまいもの世界の奥深さをあらためて感じられます。
ひとつの味をじっくり味わうのも素敵ですが、いくつか選んで食べ比べてみると、甘さの広がり方や香り、食感の違いがよりはっきりと感じられて面白いものです。作りたい料理に合わせて品種を変えるだけで、仕上がりの印象も変わり、食卓にちょっとした発見が生まれます。それぞれの特徴を知ることで、選ぶ時間もより楽しくなります。季節や気分に合わせながら、自分だけのお気に入りの一本を見つけてみてください。








