芋焼酎を蒸留し始めた最初の部分、初留
芋焼酎の造り方にはさまざまな工程がありますが、蒸したさつまいもと水を加えた2次もろみをどのように蒸留するかだけでなく、蒸留器にかけてからアルコールが出てくる最初の1滴から、最後のひとしずくまでをどのように使うかで味わいがまた違ってきます。中でも「初留」と呼ばれる、蒸留し始めに出て来るアルコールは、さつまいもの香りの中でも華やかな香りが感じられます。その香りに魅せられ、マニアの人達がこぞって買い求めることでも知られています。
蒸留にかかる時間と、それぞれの呼び名
芋焼酎は、米麹に蒸したさつまいもと水を加えて醸した2次もろみを蒸留器に入れ、蒸気を蒸留器の中に入れると、2次もろみが蒸気で熱されて、水より沸点の低いアルコールが抽出されます。単式蒸留器を使って芋焼酎を常圧蒸留をするとき、1度の蒸留には2~3時間かかります。蒸留された芋焼酎が出てくる順番は、時間ごとに「初垂れ」「中垂れ」「末垂れ」と名前がついています。初垂れは蒸留を始めたばかりの時間帯に取れるものなので、アルコール度数が高いですが、中垂れ、末垂れと時間が経つに連れて、アルコール度数は十数度まで下がっていきます。この3種類の焼酎はそれぞれに味や香りが違い、それをブレンドすることでおいしい芋焼酎が出来上がりますが、どこをどのように使うかで、原料のさつまいもの風味がどのように現れるかが変わってきます。それまでは3種類をブレンドして芋焼酎を造るのが一般的でしたが、ある時から初垂れのみを瓶詰めしたものを販売する焼酎蔵が現れるようになりました。
その華やかな香りに誰もが驚いた、芋焼酎の「爆弾ハナタレ」
最初に芋焼酎の初垂れを瓶詰めしたものを販売したのは、宮崎県にある黒木本店です。初垂れの呼び名であるハナタレを名前に冠した「爆弾ハナタレ」という芋焼酎を、1997年から販売を開始しました。焼酎のうち、初留そのものの分量が非常に少なく希少なことや、その華やかでフルーティな香りと、冷凍庫に入れてもウォッカと同様に凍ることがなく、とろりとした口当たりになることが評判を呼び、芋焼酎マニアの間で話題になりました。その後他の芋焼酎を造る蔵も追随する形で初留を瓶詰めした製品を造るところが現れ、2000年代にちょっとしたブームになりました。
初留の分量は芋焼酎全体のどれくらいの割合?
芋焼酎の中でも取れる分量が少ないと言われる初留ですが、実際にどのくらいの割合なのでしょうか。実は中垂れと末垂れを加えた芋焼酎全体のうち、初留と呼ばれる部分はほんの1~3%しかありません。時間にすると、蒸留し始めてからわずか10分ほどの間しか、初留は取ることが出来ないのです。分量が少なく希少なため、数量限定や季節限定での販売をするところが多く、小さな瓶に入ったものが多いのもうなずけます。
芋焼酎の初留の魅力とは
さて、芋焼酎マニアがこぞって購入したことで有名になった初留を使った芋焼酎の魅力とはどんなものだと思いますか?蒸留の一番最初の部分は、揮発性の強い華やかな香りが強く、バナナのようなフルーティな香りや、フローラルな香りが強く感じられます。芋焼酎なのに花の香り?と思うかも知れませんが、実際に飲んでみると、今度は原料に使われているさつまいもの特徴がしっかりと感じられ、香りの余韻に残ります。アルコール度数が高いため、冷凍庫でよく冷やすととろみが出て、それをショットグラスやノージンググラスなどに注いで、香りと味わいを楽しむのがおすすめです。とろりとした口当たりだけでなく、甘露とも言える甘やかな舌触りは他の焼酎にはない魅力でもあります。もちろん、ストレートで飲むのはアルコール度数が高くてちょっと、という方は、水割りやお湯割りで楽しむのもおすすめです。水割りにするとより華やかさが強調され、フローラルな香りが引き出されるだけでなく、やさしいさつまいもの甘みが余韻に残ります。また、お湯割りで楽しむと、さらに華やかな香りが強調され、フルーティでフローラルな香りと、さつまいもの甘みが感じられるまろやかな口当たりを楽しむことが出来ます。初留だからと必ず凍らせて飲む、といった決まりはないので、好みの飲み方を探して見るのも良いと言えるでしょう。
いろいろな焼酎蔵の初留取りを飲んでみよう
1997年に「爆弾ハナタレ」が発売されて以来、さまざまな焼酎蔵が初留取りの芋焼酎を造って販売するようになりました。蔵によって原料に使っているさつまいもの種類が違ったりすることから、蔵ごとに違った個性の感じられる初留取りを現在は楽しめるようになっています。中には、米麹ではなく、麹もさつまいもを使って造った「全量芋」と呼ばれるものの庶流といった、非常に珍しいものや、黒麹ではなく、黄麹や白麹を使った芋焼酎の初留取りももちろんあります。小さな瓶に入って売られているため、少し割高に感じるかも知れませんが、普段飲んでいる芋焼酎とは、違った楽しみ方の出来る新たな芋焼酎として、選んでみるのもおすすめです。ぜひ手にとって見てくださいね。