離島旅行の最大のリスク「飛行機が飛ばないかも」
美しい海と豊かな自然、そして独自の歴史文化が息づく長崎県・五島列島。素晴らしい場所であることは間違いありませんが、離島を訪れる旅行者や出張者が常に抱えなければならない宿命的なリスクがあります。 それが、「天候不良による交通機関の欠航・遅延」です。
今年のゴールデンウィーク(GW)、私は出張で五島(福江島)に滞在していました。 5月4日の夕方には兵庫県の神戸市で絶対に外せない重要な打ち合わせが控えており、前日の5月3日に福江空港(五島つばき空港)から飛行機で関西(西宮)へ移動すれば、時間的にも体力的にも十分に間に合う!最初は、そう余裕を持って見積もっていました。
しかし、島を出る直前になって雲行きが怪しくなります。 天気予報を確認すると、3日は朝から雨続きで、強風を伴う悪天候の予報。五島を発着するプロペラ機は風や視界不良に弱く、「条件付き運航(引き返す可能性あり)」や「欠航」になるリスクが非常に高い状況でした。 「もし3日の飛行機が飛ばなかったら?」「4日の朝の便に振り替えても間に合わないかもしれない」 焦って航空便の変更を試みましたが、そこは一年で最も混雑するGWの繁忙期。前後の便に空席などあるはずもなく、航空便の運航にすべてを賭けるのは、ビジネスにおいてあまりにも危険なギャンブルでした。
そこで私は急きょ、予約していた飛行機を諦め、前日の5月2日(土曜日)のうちに島を出発し、「船と鉄道(新幹線)」を乗り継いで陸路で関西まで帰るという、緊急時の代替ルートを選択することにしました。 事務所を出発してから自宅に到着するまでにかかった時間は、なんと約8時間。正直に言って、心身ともに消耗が激しく「誰にでもおすすめできるルート」ではありません。 しかし、天候に左右されやすい離島の旅において、万が一の帰れないという最悪の事態を防ぐために、このルートの存在と道中のリアルな状況を知っておく価値は絶対にあります。
この記事では、私が実際に通った五島から関西への8時間の代替ルートの全貌と、その道中で身をもって感じた注意点や教訓を詳細にまとめました。
飛行機なら3時間。なぜ陸路だと「8時間」もかかるのか?
五島(福江空港)から関西へ帰る場合、通常であれば福岡空港や長崎空港での飛行機の乗り継ぎを含めても、おおよそ3時間〜4時間程度で到着することができます。 それがなぜ、「船+鉄道」の陸路ルートになると約8時間もの長丁場になってしまうのでしょうか。その理由は、本土へ渡ってからの「乗り換えの多さ」にあります。
五島から陸路で関西(新大阪方面)を目指す場合の基本的なルートは以下のようになります。
- 福江港 から 高速船(ジェットフォイル)またはフェリーで 長崎港 へ
- 長崎港 から 徒歩と路面電車で 長崎駅 へ
- 長崎駅 から 西九州新幹線で 武雄温泉駅 へ
- 武雄温泉駅 から 特急(リレーかもめ等)で 新鳥栖駅 または 博多駅 へ
- 新鳥栖・博多駅から 山陽新幹線で 新大阪駅 へ
- 新大阪駅から 在来線などを乗り継いで 自宅(西宮・神戸方面) へ
海を渡る時間を除いても、長崎県から兵庫県まで、幾度となく列車を乗り継いで本州を目指さなければなりません。移動距離そのものの長さ以上に、この「乗り継ぎの連続」が、後々じわじわと精神的な疲労としてのしかかってくることになります。
実録:五島から関西への「8時間」の過酷な移動ルート完全解説
それでは、私が5月2日に実際に経験した、福江島から西宮までの約8時間に及ぶ大移動の記録をステップごとに解説していきます。
① 15:45〜 福江港から長崎港へ:大混雑と奇跡の出会い

夕方の15時45分に五島の事務所を出発し、海の玄関口である「福江港ターミナル」へと向かいました。 ターミナルに足を踏み入れた瞬間、そこはGWの中日らしく、文字どおり「人・人・人」の凄まじい大混雑でした。窓口には長蛇の列ができ、待合所のベンチも完全に埋まっています。港の沖合には大型のクルーズ船のような大きな船も停泊しており、五島列島を訪れる観光客の多さが一目で分かりました。
私が乗船したのは、長崎港までを約1時間20分〜1時間半ほどで結ぶ高速船(ジェットフォイル)です。フェリー(約3時間強)に比べて料金は高いですが、この後の長丁場を考えると、海上の移動時間は少しでも短縮しなければなりません。

船内に乗り込み、指定された座席に座ると、隣の席は小さなお子さんを連れたご家族でした。 少し言葉を交わすと、今回が初めての五島旅行だったとのこと。美しい海での出来事や、美味しい食事の話など、「五島旅行が本当に楽しかった!」というエピソードを笑顔で語ってくださり、五島に関わる人間としてこちらまで嬉しくなるような、心温まる時間でした。
さらに驚いたのが、会話の中でパパさんの地元を尋ねたところ、まさかの「兵庫県の西宮です」というお返事が返ってきたのです。なんと、私の自宅から徒歩圏内のエリアでした。 日本の西の果て、五島列島から本土へ向かう船の中で、ご近所さんと隣の席になるという奇跡的な旅先の偶然。これから始まる長時間の移動に対する憂鬱な気分が、この楽しい会話のおかげで少しだけ和らぎました。
② 17:30〜 長崎港から長崎駅へ:路面電車でのスムーズな移動

約2時間弱の航海を終え、船は長崎港(長崎港ターミナルビル)へと到着しました。 ここでのポイントは、「到着のアナウンスが流れる前に、早めに出口付近へ移動して荷物を持って待機しておくこと」です。満席の船内から全員が降りるのには時間がかかります。次の列車への乗り継ぎ時間を少しでも確保するため、下船したら脇目も振らずにすぐ移動を開始しました。

長崎港からJR長崎駅までは、歩けない距離ではありませんが、大きな荷物がある場合は「路面電車(長崎電気軌道)」を利用するのが鉄則です。 ターミナルを出てすぐの「大波止」電停へ向かうと、タイミング良く長崎駅前行きの電車がやってきていたので、ほぼ待ち時間ゼロで乗車することができました。 車内は観光客で混み合っていましたが、久しぶりに路面電車を利用して驚いたのが、「PayPay(QRコード決済)」で運賃の支払いができたことです。小銭を探す手間が省け、スムーズに降車できたのは、急いでいる乗り継ぎ客にとって非常に便利な進化でした。
③ 18:00〜 西九州新幹線と特急の乗り継ぎ:途切れない緊張感
新しく生まれ変わった綺麗な長崎駅に到着し、ここからはついに鉄道の旅が始まります。まずは「西九州新幹線」のホームへと向かいました。

長崎駅から武雄温泉駅までを結ぶ西九州新幹線(かもめ)の車内は、GWにもかかわらず拍子抜けするほど空いており、快適な空間でした。しかし、リラックスできたのも束の間。ここから先は、関西に着くまで気を抜けない「乗り換えの連続」が待ち受けています。
- 長崎駅 →(西九州新幹線)→ 武雄温泉駅
- 武雄温泉駅 →(特急リレーかもめ 等)→ 新鳥栖駅
- 新鳥栖駅 →(山陽新幹線)→ 新大阪駅

特に武雄温泉駅では、新幹線から在来線特急への「対面乗り換え(同じホームの向かい側に乗り換える方式)」が行われます。移動距離は短いですが、大勢の乗客が一斉に民族大移動のように乗り換えるため、自分の乗るべき号車と座席位置を瞬時に把握して動かなければなりません。

そして、特急に揺られて新鳥栖駅に到着すると、今度は在来線ホームから新幹線ホームへの乗り換えが発生します。 乗り場の番線の確認、次の列車の発車時刻のチェック、自分の指定席が何号車のどの位置にあるのか…。一つ間違えれば関西まで帰れなくなるかもしれないというプレッシャーの中、こうした「小さな確認作業」の積み重ねが、ボディブローのように疲労をじわじわと増やしていきます。
④ 新鳥栖〜新大阪:食料難民の危機と、GWの激混み新幹線
今回の8時間に及ぶ移動の中で、私が最も困り、そして後悔したのが「食べ物の確保」でした。
五島の事務所を夕方に出発したため、夕食をとる時間がありませんでした。長崎駅での乗り換えもスムーズすぎたため、「途中の新鳥栖駅で新幹線に乗り換える時に、駅弁か何かを買えばいいだろう」と甘く考えていたのです。
特急を降りて新鳥栖駅の構内を歩き回り、愕然としました。 なんと、新鳥栖駅の構内にはコンビニエンスストア(キヨスク)が1店舗しかなく、弁当屋や飲食店が見当たらなかったのです。しかもGWの繁忙期ということもあり、唯一のコンビニの棚からはおにぎりやサンドイッチなどの主食系がすっかり姿を消しており、売り切れ状態でした。 空腹を抱えたまま、わずかに残っていたスナック菓子とお茶だけを買い込んで、新幹線に乗り込む羽目になりました。

さらに、新鳥栖駅から乗り込んだ山陽新幹線の車内は、博多駅に近づくにつれて一気に大混雑となりました。 指定席は満席、自由席の車両からは人が溢れ出し、車両と車両の間のデッキや通路にまで、大きなキャリーケースを持った乗客がすし詰め状態で立っているという、GW特有の地獄のような光景が広がっていました。 私は幸運にも、飛行機を諦めた時点でたまたま指定席の空席を確保できていたため座ることができましたが、もし自由席の切符でこの新幹線に挑んでいたら……と思うと、背筋が凍る思いがしました。数時間立ちっぱなしでの移動は、体力的に相当厳しかったはずです。
⑤ 23:45 帰宅:「あと少し」が遠いラストスパート

空腹と疲労に耐えながら新幹線に揺られ、ようやく新大阪駅に到着しました。 新幹線の改札を抜けた時、「あぁ、やっと関西に帰ってきた」と安堵しましたが、実はここからが本当のラストスパートです。

新大阪駅に到着しても、そこはまだ大阪のど真ん中。私の自宅や、翌日の打ち合わせ場所がある兵庫県(西宮・神戸方面)までは、さらに在来線を乗り継がなければなりません。 JR京都線に乗り換えて大阪駅へ向かい、そこから阪急神戸線に乗り換えて西宮北口駅へ。夜遅い時間帯のターミナル駅の移動は、重い足取りにさらに拍車をかけます。 「あと少し」という距離が、疲弊しきった身体にはこれほどまでに遠く感じるものかと痛感しました。

西宮北口駅から最後はタクシーに乗り込み、なんとか自宅の玄関のドアを開けたのが、時計の針が23時45分を指した時でした。
五島の事務所を出たのが15時45分。 飛行機に乗っていれば、乗り継ぎの待ち時間を含めても3時間程度で済むはずの距離を、約8時間かけて文字通り「這うようにして」帰還しました。 陸路の移動時間の長さもさることながら、乗り換えの多さと「絶対に間違えてはいけない、乗り遅れてはいけない」という極度の緊張感が、道中の眠気を一切寄せ付けませんでした。自宅のベッドに倒れ込んだ瞬間、泥のように眠りに落ちたのは言うまでもありません。
緊急時の代替ルートを乗り切るための「3つの教訓」
今回、五島からの帰路に「船+鉄道(新幹線)」という緊急代替ルートを利用してみて、身をもって学んだ教訓があります。 もし皆さんが、離島旅で「飛行機が欠航しそう!どうしよう!」と同じような状況に陥った際、少しでも疲労とストレスを軽減するために、以下の3つのポイントを必ず覚えておいてください。
教訓①:満席になる前に動く(早めの代替ルート確保)
天候不良が予想される場合、同じ便に乗る予定だった他の乗客たちも一斉に代替ルートを探し始めます。 特にGWやお盆、年末年始などの繁忙期は、新幹線の指定席やフェリーの席が瞬く間に埋まってしまいます。少しでも「飛行機が危ないかも」と感じたら、躊躇することなく、早めに船と新幹線の指定席を確保する決断を下してください。 今回、私が新大阪まで座って帰れたのは、決断を早めて指定席を押さえられたからです。自由席での長距離移動は、疲労度を何倍にも跳ね上げます。
教訓②:水分と軽食は「港や大きな駅」で先に買っておく
今回の私のように、途中の乗換駅(新鳥栖駅など)で食料を調達しようとするのは非常に危険です。 繁忙期はコンビニの在庫がすぐに空になり、「食べ物の確保(食料難民)」という思わぬピンチに直面します。 福江港のターミナル売店や、長崎駅のような大きなターミナル駅に到着したタイミングで、必ず飲料水と、おにぎりやパンなどの軽食を少し多めに買っておくのが、長距離移動を乗り切るための最大の安心材料になります。
教訓③:乗り換え時間に十分な余裕を持たせる
移動時間を少しでも短くしようと、検索アプリで表示された「ギリギリの乗り換え時間」でスケジュールを組むのはおすすめしません。 船の到着が数分遅れたり、不慣れな駅でホームを迷ったりするだけで、次の新幹線に乗り遅れるという致命的なミスに繋がります。「長崎駅で30分お茶を飲む」「新鳥栖駅で1本後の新幹線にする」など、乗り換え時間に意図的な余裕(バッファ)を持たせることで、「間違えてはいけない」という精神的なストレスと緊張感がかなり軽減されます。
まとめ:離島旅は「想定外」が起こる前提で楽しもう

五島発の航空便が欠航しそうなときの代替案として、「船で長崎へ出て、鉄道で関西まで戻る」というルートは、時間と労力さえかければ確実に成立します。
しかし、体力と時間の消耗は想像以上に大きく、ビジネスなどのどうしてもの理由がない限りは、できる限り日程を調整して飛行機での移動を待つのがベストな選択です。私自身、8時間の移動を終えて「二度と同じルートは通りたくない」と心から思いました。
それでも、離島への旅においては「天候不良で帰れないかもしれない」という“想定外”が常に隣り合わせです。 いざという時にパニックにならず、安全に確実に自宅へ帰るための「選択肢をいくつか持っておくこと」の重要性を、今回の過酷な移動から学びました。
これから五島列島をはじめとする離島へ旅行に行かれる方は、素晴らしい自然やグルメを存分に楽しむと同時に、帰りのルートの「プランB」を頭の片隅に置いておくことをおすすめします。その少しの準備が、万が一の緊急事態にあなたを助けてくれるはずです。








