熱中症の症状、これが出たらすぐ病院へ。命に関わるサインと自分でできる応急処置

まずは知っておきたい熱中症の基本

夏の厳しい暑さは、私たちの体に大きな負担をかけます。特に注意したいのが「熱中症」です。症状が出てから慌てないためにも、まずは熱中症がどのようなものか、その基本的な知識をしっかりと押さえておくことが、自分や大切な人の命を守る第一歩になります。

熱中症とは？その原因をわかりやすく解説

熱中症とは、高温多湿な環境に体が対応できず、体温の調節機能がうまく働かなくなることで起こる、さまざまな症状の総称です。私たちの体は、汗をかいたり、皮膚の血管を広げて熱を外に逃がしたりすることで体温を一定に保っています。しかし、あまりに暑い環境に長時間いると、この仕組みが追いつかなくなり、体内に熱がこもってしまいます。その結果、めまいや頭痛、吐き気といった不調が現れ、最悪の場合は命に関わることもあるのです。

熱中症を引き起こす原因は一つだけではありません。「環境」「からだ」「行動」という３つの要因が複雑に絡み合って発症のリスクを高めます。

特に、体がまだ暑さに慣れていない梅雨明けの時期や、気温はそれほど高くなくても湿度が高い日は注意が必要です。屋外だけでなく、エアコンのない室内や風通しの悪い場所でも発症するケースは決して少なくありません。

【セルフチェック】熱中症の症状を重症度別に解説

私たちの体は、熱中症になるとき、段階的にサインを送ってくれます。このサインを見逃さず、早い段階で気づくことが何よりも大切です。ここでは、熱中症の症状を重症度別に見ていきましょう。ご自身の状態がどれに当てはまるか、ぜひ確認してみてください。

まずは、重症度ごとの主な症状と対処の目安を一覧で確認しましょう。

軽症（I度）の症状 サインを見逃さないで

まだ意識がはっきりしているこの段階なら、現場での応急処置で回復が見込めます。しかし、ここで無理をすると一気に悪化する恐れがあるので、決して油断はできません。

めまい・立ちくらみ（熱失神）

炎天下で作業を続けていると、急にクラっときたり、立ち上がった瞬間に目の前が暗くなったりすることがあります。これは、体温を下げるために皮膚の血管が広がり、一時的に脳への血流が減ってしまうために起こる「熱失神」と呼ばれる症状です。

筋肉痛・こむら返り（熱けいれん）

大量に汗をかくと、水分と一緒に体内の塩分（ナトリウム）も失われていきます。すると、筋肉が異常に収縮してしまい、足や腕、お腹の筋肉がつる「こむら返り」や、筋肉痛のような痛みが起こります。これが「熱けいれん」です。水分だけを補給していると、かえって症状が悪化することもあるので注意が必要です。

大量の汗をかく

汗をかくこと自体は、気化熱で体温を下げるための正常な体の反応です。しかし、だらだらと滝のように汗が止まらない状態は、体が必死に熱を逃がそうとしているサインです。この段階で水分と塩分の補給が追いつかないと、より重い症状に進んでしまいます。

中等症（II度）の症状 応急処置が必要

軽症のサインを見逃したり、対処が遅れたりすると、症状は次の段階に進みます。ここまでくると、ご自身での水分補給が難しくなることもあり、速やかな応急処置と、症状が改善しない場合は病院での処置が必要になってきます。

頭痛・吐き気・嘔吐

ズキズキとした頭痛や、むかむかする吐き気、さらには実際に吐いてしまうといった症状は、脱水が進み、体の機能がうまく働かなくなっている証拠です。もし吐いてしまうと、口からの水分補給がさらに困難になるため、症状の悪化につながりやすくなります。

体のだるさ・倦怠感（熱疲労）

体が重く、ぐったりとして力が入らない。何をやるにも億劫で、強い疲労感に襲われる。これが「熱疲労」です。体の水分や塩分が不足し、重要な臓器への血流が減ることで引き起こされます。放置すれば、さらに重い症状である熱射病に移行する危険があります。

集中力や判断力の低下

いつもなら簡単にできる作業に手間取ったり、話が頭に入ってこなかったり、ぼーっとして反応が鈍くなったりします。これは、体だけでなく脳の機能も低下し始めているサインであり、放置すれば重症化につながる危険な兆候です。周囲の人が「なんだか様子がおかしい」と感じたら、それは重要なサインかもしれません。

重症（III度）の症状 命に関わる危険なサイン

この段階は、もはや一刻を争う緊急事態です。体温調節機能が完全に破綻し、命そのものが危険にさらされています。ためらわずに、すぐに救急車を呼んでください。現場での応急処置を行いながら、救急隊の到着を待つことが重要です。

意識がない・呼びかけに反応しない（熱射病）

声をかけても返事がない、つねっても反応が鈍い、あるいは完全に意識を失っている状態です。これは中枢神経に深刻なダメージが及んでいる「熱射病」の典型的な症状で、極めて危険です。後遺症が残る可能性も高く、最悪の場合は死に至ります。

けいれん発作が起こる

体がガクガクと震え、手足が突っ張るような全身性のけいれんが起こることがあります。これも脳の機能に異常をきたしている重大なサインです。舌を噛まないように何かを口に入れるのは、窒息の危険があるため絶対に行わないでください。

まっすぐ歩けない・走れない

意識はあっても、まるで酔っ払ったかのように足元がふらつき、まっすぐ歩くことができない状態です。体のバランスを保つ小脳の機能が障害されている可能性があり、非常に危険です。無理に動かそうとせず、すぐに救急車を呼びましょう。

体が異常に熱い（高体温）

触ると火傷しそうなくらい皮膚が熱いのに、汗をかいていない、あるいは皮膚が乾いていることがあります。これは、体温調節機能が完全に壊れてしまい、汗を出して体を冷やすことすらできなくなった状態を示しています。体温が40℃を超えることもあり、脳や内臓に深刻なダメージを与えます。

この症状が出たらすぐ病院へ！救急車を呼ぶべき危険なサイン

熱中症は、軽症であれば現場での応急処置で回復することがほとんどですが、症状によっては一刻を争う事態に発展します。これからご紹介するサインは、命に関わる重症（III度）の熱中症の可能性が非常に高い状態です。ご自身や周りの人にこれらの症状が見られた場合は、ためらわずにすぐに119番通報し、救急車を呼んでください。

意識障害がある場合

熱中症による最も危険なサインの一つが意識障害です。これは、脳の機能に重大な障害が起きていることを示しています。呼びかけに対する反応が鈍い、うわごとを言う、あるいは全く反応がないといった場合は、極めて危険な状態です。体を揺さぶったりせず、すぐに救急車を要請してください。

全身のけいれんがある場合

自分の意思とは関係なく、体がガクガクと震えたり、手足が硬直したりする「けいれん」も、重度の熱中症でみられる症状です。体温の異常な上昇によって中枢神経に異常が起きているサインであり、家庭での対応は困難です。直ちに専門的な医療処置が必要になります。

自分で水分補給ができない場合

意識が朦朧としている、または吐き気がひどくて水分を受け付けないなど、自力で水分や塩分を補給できない状態も危険です。無理に飲ませようとすると、水分が気管に入ってしまい、窒息や肺炎を引き起こす「誤嚥（ごえん）」のリスクがあります。このような場合は、点滴による水分補給が必要となるため、速やかに医療機関を受診する必要があります。

応急処置をしても症状が改善しない場合

涼しい場所へ移動させ、体を冷やし、水分補給を試みるなどの応急処置を行っても、症状が少しも良くならない、むしろ悪化していくように見える場合も、救急車を呼ぶべきタイミングです。現場での対応では限界があると判断し、速やかに医療の専門家に引き継ぐことが重要です。

これらの危険なサインを、いざという時にすぐ判断できるよう、一覧表にまとめました。

救急車を呼んだ後も、到着するまでの間、可能な範囲で体を冷やすなどの応急処置を続けてください。少しでも早く体を冷やし始めることが、後遺症を防ぎ、命を救うことにつながります。

【自分でできる】熱中症の症状別の応急処置

自分自身や周りの人が「もしかして熱中症かも？」と感じたとき、その場でできる応急処置を知っているかどうかで、その後の回復が大きく変わってきます。救急車が到着するまでの間や、病院へ向かう前に、落ち着いて適切な対応をとることが非常に重要です。ここでは、誰にでもできる基本的な応急処置の3つのステップをご紹介します。

まずは涼しい場所へ避難する

熱中症の対応で、何よりもまず優先すべきは、今いる暑い環境から一刻も早く離れることです。屋外にいる場合は、風通しの良い日陰や木陰に移動しましょう。近くにクーラーが効いている建物、例えばコンビニエンスストアやスーパーマーケット、公共施設などがあれば、ためらわずに中へ入って体を休ませてください。室内で発症した場合でも、クーラーの効いた部屋へ移動したり、窓を開けて風通しを良くしたりすることが大切です。とにかく、これ以上体温が上がるのを防ぐことが最初のステップです。

衣服をゆるめて体を冷やす

涼しい場所へ移動したら、次は体から熱を逃がす手助けをします。着ている衣服をゆるめることで、体表面からの熱の放散を促し、風が通りやすくなります。ベルトやネクタイを外し、シャツのボタンを開けるなど、体を締め付けているものはすべてゆるめてリラックスできる状態にしましょう。そして、濡らしたタオルやハンカチで顔や体を拭いたり、うちわや扇子、携帯扇風機などで風を送ったりして、積極的に体を冷やしてください。

首の周り・脇の下・足の付け根を冷やすのが効果的

より効率的に体を冷やすには、太い血管が皮膚の表面近くを通っている場所を冷やすのがポイントです。ここに冷たいものを当てることで、冷やされた血液が全身を巡り、体温を効果的に下げることができます。もし、保冷剤や氷のう、冷たいペットボトルなどが手に入るようでしたら、タオルなどで包んで下の表にあるような場所に当ててみてください。ただし、凍傷を防ぐため、氷などを直接肌に当てるのは避けてください。

水分と塩分を補給する

涼しい場所で体を冷やしながら、失われた水分と塩分を補給します。汗をかくと、水分と一緒に体内の塩分（ナトリウムなどの電解質）も失われてしまいます。この状態で水だけを大量に飲むと、かえって体内の塩分濃度が薄まってしまい、体調不良を悪化させることもあるため注意が必要です。意識がはっきりしていて、吐き気や嘔吐がなく、自分で飲むことができる場合に限り、水分と塩分を一緒に補給しましょう。

経口補水液やスポーツドリンクがおすすめ

水分と塩分を効率よく補給するには、体への吸収が速い経口補水液やスポーツドリンクが最適です。もしもの時のために、ご家庭や職場に常備しておくと安心です。手元にない場合は、ご家庭にあるもので応急的に作ることもできます。

これらの応急処置を行っても症状が改善しない場合や、悪化していくように感じる場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。

【特に注意】子供や高齢者の熱中症の症状と特徴

熱中症は誰にでも起こりうるものですが、中でも特に注意が必要なのが子供と高齢者の方々です。大人に比べて体の機能が異なるため、症状の現れ方や進行の速さに特徴があります。ご本人だけでなく、周りの方がそのサインにいち早く気づいてあげることが、重症化を防ぐ鍵となります。

子供・赤ちゃんの症状の特徴

子供、特に乳幼児は、大人と比べて体温を調節する機能がまだ十分に発達していません。また、身長が低いため、地面からの照り返しの影響を強く受けてしまいます。自分で「暑い」「喉が渇いた」といった不調をうまく伝えられないため、周りの大人がサインに気づいてあげることが何よりも大切です。

次のようなサインが見られたら、熱中症を疑い、すぐに応急処置を始めてください。

遊びに夢中になっていると、子供は自分の体の変化に気づかないことがよくあります。こまめな水分補給と休憩を、大人が意識して促してあげましょう。

高齢者の症状の特徴

高齢になると、暑さや喉の渇きを感じる感覚が鈍くなる傾向があります。そのため、本人が暑さや体の異変に気づきにくいため、ご家族や周りの方が気にかけてあげることが重要になります。また、体に蓄えている水分量がもともと少ないため、脱水症状に陥りやすいのも特徴です。

高齢者の場合、次のような点に特に注意が必要です。

特に一人暮らしの高齢者の方は、症状が出ても誰にも気づかれない危険があります。電話で様子を尋ねたり、室温を確認したりするなど、日頃からのコミュニケーションを大切にしたいものです。

熱中症の症状に関するよくある質問

ここでは、熱中症の症状に関して、皆さまからよく寄せられる質問にお答えします。いざという時に慌てないためにも、ぜひ知っておいてください。

熱中症の症状が出たら病院は何科を受診すればいい？

熱中症が疑われる症状が出たとき、どの病院の何科に行けばよいのか迷うこともあるでしょう。基本的には、状況に応じて受診する科が変わってきます。

意識がはっきりしない、けいれんを起こしているなど、症状が重い場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。ご自身で病院へ向かう場合は、下の表を参考にしてください。

自分で判断に迷う場合は、救急安心センター事業（#7119）に電話して相談するのも一つの方法です。

室内でも熱中症の症状は出る？

はい、もちろん室内でも熱中症になります。実は、熱中症が発生する場所は屋外だけではなく、自宅などの室内で発症するケースも非常に多いのです。

特に、風通しが悪く湿気がこもりがちな部屋や、日当たりが良すぎる部屋では室温が上がりやすくなります。エアコンの使用を我慢したり、就寝中にエアコンを切ってしまったりすることで、知らず知らずのうちに熱中症のリスクが高まっていることも少なくありません。

高齢者や乳幼児は体温を調節する機能が未熟なため、特に室内での熱中症には注意が必要です。喉の渇きを感じにくくなっていることもあるため、時間を決めて水分補給を促すなどの工夫が大切になります。

回復後も症状が続くことはある？

はい、熱中症から回復した後も、しばらく体調不良が続くことがあります。一度回復したように見えても、熱中症による体へのダメージが完全に癒えていない場合があるからです。

具体的には、次のような症状が残ることが報告されています。

• 体のだるさ、倦怠感
• 頭痛やめまい
• 集中力や記憶力の低下
• 胃腸の不調

特に重症度が高かった場合ほど、症状が残りやすい傾向にあります。熱中症になった後は、決して無理をせず、涼しい環境で十分な休養をとることが何よりも重要です。栄養バランスの取れた食事とこまめな水分補給を心がけ、体力の回復に努めましょう。もし症状が長引くようであれば、自己判断せずに再度、医療機関を受診してください。

まとめ

今回は、夏本番を迎える前にぜひ知っておきたい、熱中症の症状について重症度別に見てきました。めまいや筋肉の痛みといった軽度のサインを見逃さず、早い段階で涼しい場所へ避難し、体を冷やして水分と塩分を補給することが、重症化を防ぐ何よりの対策になります。そして、もし意識がはっきりしない、けいれんが起きているなど、命に関わる危険なサインが見られた場合は、ためらうことなく救急車を呼ぶことが重要です。ご自身と、周りの大切な人の命を守るために、この記事でご紹介した症状と応急処置の方法を、ぜひ覚えておいてくださいね。