赤島港に近づいてきたのは、森川船長が操舵する伊勢海老漁用の船。この小さな漁船に乗り、いよいよ大板部島へ向かいます。
「無人島0円生活」の舞台にもなった大板部島の概要
大板部島は福江島の南西海上12km(ここ赤島からは約1.5km西)にある、周囲2kmほどの無人島。標高16mという平べったい島ですが、火山島であり、玄武岩という黒っぽいゴツゴツした火山岩に島全体が覆われています。
上陸困難な秘境!大板部島の自然の厳しさ
周囲は浅瀬になっており、また入江が無いため大潮の日の干潮の時を狙い、しかも波がなく穏やかな「凪」の時にしか着岸出来ません。今回も岸辺が近くなってきたらエンジンを停め、森川船長が長い棒を使い漕ぐようにして船を岸に着けることが出来ました。このようにチャーター船のみ、しかも着岸時の条件が限られているので、この島に上陸することは容易ではなく、これも「秘境」とされる所以です。(※さらに島に上陸するには、島の所有者等に許可を得なければならず、今回はこのツアーを企画して下さった方の計らいにより上陸が実現しました。)
また大板部島は、以前「無人島0円生活」というテレビ番組で、よゐこのvs森泉・長谷川潤がサバイバル対決したロケ地ともなっていたようです。
平坦な島に隠された秘宝・溶岩洞窟を目指して
海から見た大板部島
運良くそのようなハードルの高い条件をクリアし、無事に上陸を果たしたものの、今回の目的地「溶岩洞窟」へ向かうには歩くこと約30分、足場の悪いゴツゴツ、ガサガサした溶岩海岸の岩を登ったり降りたりしなければなりません。時折、白くきれいな砂浜(珊瑚や貝が砕けて出来た砂浜)があるので、そこでひと休みして、広々とした海や隣の小板部島、遠くに見える福江島の鬼岳などを眺めながら進みます。
岩の上に作られた、タカの仲間「ミサゴ」の巣
溶岩洞窟の入り口のある島の中央に分け入る草むらに入り、そこから木々が行く手を立ち塞ぐ山道となり(たった16mの標高でも、山道のような感じがしました)、一列になって、先頭の人がナタや鎌で枝やツルを切り、貼ってくれたロープをつたいながら登っていくと、、
溶岩洞窟で出会う地底湖と縄文遺跡
ついに溶岩洞窟の入り口に到着。しかしこの洞窟の入り口は急斜面になっており、2本のロープを使って降りていかなければなりません。光はヘッドランプや懐中電灯を頼りに降りていくのですが、いよいよ探検の始まり!ドキドキ、ハラハラ、、気持ちが昂ります。
何とか全員無事に降りきり、奥にライトを当てると、、、すぐそこには地底湖がありました。暗いながらも、洞窟の天井からは時折水が滴り落ち、ポチャ、ピチャ、という音がします。かなり神秘的、、。また近くの壁面には、一升瓶とアワビの貝殻が祀られていました。
この地底湖からは、縄文人の食べた貝殻(貝塚)や縄文土器、黒曜石の道具などが発見されたとのこと、つまり縄文時代(紀元前10,000年〜紀元前300年)、ここに人が住んでいたことを証明している「縄文遺跡」であることを物語っています。実際に貝塚や土器を見たり、手にした訳ではありませんが、それを思うと、この洞窟は縄文時代、どんな様子だったのだろうと想像してしまいます。この地底湖に向かって右側にも高さ3mくらいの通路があり、行ってみることに。キラキラと水滴(おそらく)に光る天井や、溶岩の流れた跡がわかる壁を見ながら、ぬかった(ぬかるんだの五島弁)地面を歩いていくと、洞窟は二手に分かれており、その一つの奥にはまた地底湖が!この洞窟の規模の大きさに驚かされます。
五島列島の地質が作り出した壮大な溶岩洞窟の秘密
溶岩洞窟は、火山から流れ出てきた粘り気の少ない溶岩の表面が固まってトンネル状になり、その中を新たに火山から噴き出した溶岩が突き抜けるように通り、その表面がまた固まり、、という現象が繰り返されて出来たもの。実は福江島の富江にも溶岩洞窟があるのですが、天井の岩盤崩落の危険性があり、現在立ち入ることが出来ません。また、すぐ近くの黄島(おうしま)にも長さ132mの溶岩洞窟があり、
その奥には観音様が祀られ、毎年旧暦の1月には島のお寺さんと島の人達による「観音祭」というお祭りが行われます。福江島の火山地帯と、周囲の火山によって出来た島々が作り出した「絶景」ですね。
観光地化の難しさと自然資源としての未来の価値
なかなか人が踏み入ることの出来ない大板部島の溶岩洞窟ですが、貴重な自然資産としてこれから調査や研究が進んでいくと良いと思います。もちろん五島に住んでいる者として、多くの方々にこの手付かずに残された洞窟を知って欲しい、見て欲しいですが、観光地として整備するのには色々な面からかなりの困難が予想されます。まずはこの場所の持つ地質的・歴史的な価値を、しっかりわかることが大切と思われるのですが、、、。
最後に探検隊全員で記念写真を撮り、洞窟を後にします。来た道を引き返し、また3つの班に分かれて赤島へ戻りますが、船の到着を待つ間、海ごみを拾い集める人や(頭下がります)、海の生き物を観察する人、貝殻探しをする人や、岩場で横になって大板部島をまさに“体感”する人など、思い思いに時間を過ごしていました。
洞窟探検後、岩場でのお弁当タイム!
赤島からはまた瀬渡し船に乗り、福江港へ。その途中、森川船長の粋な計らいにより、渡り鳥であるはずの「カツオドリ」が通年棲みついているという岩場(火山島が侵食されて出来た)を廻ってくれたのですが、船が近づき驚いたカツオドリたちの群舞を見ることが出来ました、船長、ありがとう!
立島とカツオドリたち
感動の1日を支えた人々への感謝
一日がかりの赤島、そして大板部探検でしたが、福江島の近くにこんな自然や、遺跡が残されていることに改めて気づき、感動した1日となりました。改めて、今回の大板部行きの企画をかなり以前に立てられ、準備・実施して下さった「花笑みきくや」の大島さん、船で全面的にお世話になった森川さん、赤島を案内していただいた大山さん、ありがとうございました。
*写真の一部は、同行した方が撮影されたものを使用させていただいています。
*参考資料:観光庁 地域観光資源の解説文データベース 大板部島 海中遺跡
五島市の無人島「大板部島」訪問前に立ち寄った赤島は、かつてカツオ漁で栄え、現在は約7人が暮らす小さな島です。水道がない島の生活を支えるため、雨水を濾過する「しまあめラボ」が設置され、生活環境の改善が進んでいます。