日本一美しい海を求めて。福江島の海が特別な理由
長崎県の西の果てに浮かぶ五島列島。その中心となる最大の島が「福江島(ふくえじま)」です。 福江島を訪れる観光客の最大の目的であり、そして多くの移住者がこの島を終の棲家に選ぶ一番の理由……それは、圧倒的な美しさを誇る「海」の存在です。
真っ白な砂浜と、透明度が高くエメラルドグリーンに輝く海水のグラデーション。その美しさは「日本の渚・百選」や「日本の海水浴場88選」に選ばれるほどで、沖縄や海外のリゾート地にも決して引けを取りません。夏のハイシーズンになれば、県内外から多くの海水浴客が訪れ、島全体が活気に満ち溢れます。
しかし、観光客が知っている「夏のキラキラした海」は、福江島の魅力のほんの一部に過ぎません。一年中この島で暮らしていると、海がもたらす豊かな恵みだけでなく、手付かずの大自然が牙を剥く「リアルな日常」にも直面します。
この記事では、私が住む福江島・三井楽町(みいらくちょう)エリアの絶対に外せないおすすめの海3選をご紹介します。さらに、移住者が最初に直面する「大自然の洗礼(虫事情)」や、海が近すぎるからこそ起きる「島民あるある」まで、飾らない福江島のリアルをたっぷりと語り尽くします。
移住してビックリ!美しき海と隣り合わせの「大自然の洗礼」
福江島の美しい海に憧れて移住してきた人が、最初の春から夏にかけて必ず直面し、そして徐々に慣れていく「大自然の洗礼」があります。田舎暮らしのリアルな日常を少しだけお知らせします(笑)。
春先の黄砂と、容赦ない虫たちとの戦い

4月に入ると、福江島ではすでに汗ばむような暑い日が続くようになります。
「天気が良いから、洗濯物やお布団を外に思い切り干したい!海風を入れたい!」と思うのですが、実はこの時期、五島列島は中国大陸から飛んでくる「黄砂(こうさ)」をまともに受ける最前線となります。日によっては空が霞むほどで、うかつに部屋の窓も開けられません。春先は、毎日の天気予報で花粉情報に加えて「黄砂情報」をチェックするのが、島民の必須のルーティンなのです。
ムカデとマムシ。島民のサバイバル術と「バルサン品薄事件」
春が来たと思えば、大自然の住人たちが容赦なく家の中に侵入してきます。 ある日、自分の部屋に大きな「ムカデ」が出現しました。その時は1匹しか見かけなかったのですが、福江島に住んでいる島民の口癖は「ムカデはつがいでいることが多いから、1匹見つけたら必ずもう1匹いると思え」です。そのため、「いつもう1匹が出てくるのか…」と、毎日ヒヤヒヤしながら過ごすことになります。

まだ刺されたことはありませんが、お風呂上がりに部屋着に着替えようとズボンに足を入れた瞬間、中から巨大なムカデが這い出てきて、心臓が止まるほどビックリしたこともありました。周囲を藪に囲まれている家が多い福江島では、種類も大きさも多種多様な虫たちとの共存(という名の戦い)が避けられません。
虫に続いて恐ろしいのが「ヘビ」です。 昨年のこと、玄関のドアを開けたら、目の前でとぐろを巻いたマムシ(五島の方言では「ヒラクチ」と呼びます)が鎮座していました。草刈り用のカマを持って「仕留めてやろう!」と意気込みましたが、ササッと逃げていなくなってしまいました。
あまりにも虫が出るので、「これはたまらん」とバルサンをストックしようと近所の薬局へ走りました。しかし、探しても探してもその類の商品が見当たりません。店員さんに確認すると、なんと「既に完売状態で、棚もガラガラ」とのこと。 気温が上がり虫が出てくるタイミングは、島中どこも同じです。福江島に住む人たちは、皆買うタイミングが見事にシンクロしているのだなと、離島特有の連帯感を感じた出来事でした。
移住者が本気でオススメする「三井楽町の海」3選

さて、虫の話で少し脅してしまいましたが、ここからが本題です。
私が住んでいる福江島の「三井楽町」というエリアは、島内でも屈指の美しい海が点在する場所です。観光の王道から、地元民しか知らない穴場まで、私が本気でオススメする三井楽の海を3つ厳選してご紹介します。
1. まるでプライベートビーチ!磯遊びが楽しい「中浜(なかはま)」

1つ目にご紹介するのは、「中浜(なかはま)」という穴場のスポットです。 三井楽町に入ってすぐの場所に「白良ヶ浜(しららがはま)」という有名な海岸があるのですが、トンネルを抜けて右折し、白良ヶ浜を見ながら少し道を登って下った先に、この中浜がひっそりと姿を現します。
中浜は、ガイドブックに載るような正式な「海水浴場」ではありません。そのため、夏のハイシーズンでも泳いでいる人はほとんどおらず、まるで自分だけのプライベートビーチのような贅沢な空間が広がっています。車を駐車して、数歩歩けばすぐに海に入れるアクセスの良さも魅力です。 海は遠浅になっており、砂浜自体が狭いこともあって、小さな子供と一緒に行っても隅々まで目が届くという、親にとっては非常に安心できる利点があります。
美味しい海の幸(エビとミナ)の宝庫
中浜の最大の魅力は、砂浜の両端にある2箇所の「岩場」です。ここでは、美味しい「小さなエビ」と「ミナ(島でよく採れる小さな巻貝)」がたくさん採れます。磯遊びにはもってこいの場所です。
採れたエビは、かき揚げにしたり、シンプルに素揚げして塩を振って食べると絶品です!ただし、揚げたエビの頭の殻が硬くて口の中に刺さることがあるので、食べるときはそこだけ注意してください。 ミナ貝も、塩茹でにしたり、身を取り出してかき揚げや炊き込みご飯の具にすると、磯の香りが口いっぱいに広がって最高に美味しいです。
中浜へ行く際は、ぜひバケツと小さな網を持参してください。そして海から帰る時は、バケツに採った貝が浸るくらい「現地の海水」を入れて持ち帰るのが鉄則です。この海水をそのまま使って貝を塩茹ですると、絶妙な塩加減に仕上がります。
観光客に伝えたい「中浜」の注意点
中浜を訪れる際、事前に知っておいていただきたい注意点があります。 道路から砂浜へ下りる入り口付近に、海流の関係でどうしても漂着ゴミが多く溜まってしまう場所があり、初めて来た観光客の方は少しがっかりしてしまうかもしれません。しかし、そこを抜けた先の砂浜と海は驚くほど美しく、海水も透き通っています。 また、正式な海水浴場ではないため「水道やシャワー設備が一切ない」という点にも注意が必要です。帰る時に足を洗うための真水を、ペットボトルなどに入れて持参することを強くおすすめします。
2. 断崖絶壁と緑の草原!インスタ映え確実の「高崎(たかさき)」

2つ目にご紹介するのは、荒々しい自然の造形美が楽しめる「高崎(たかさき)」エリアの海です。
昔の記憶と比べると、この高崎周辺の海は清掃活動が進んだのか、断然綺麗になったイメージがあります。波が高い日も多いため、海に入るというよりは、その雄大な景色を眺めるのに適した場所です。

ダイナミックな景観と「高崎鼻」
高崎の海から少し足を伸ばすと、「高崎鼻(たかさきばな)」という岬にたどり着きます。 ここは海に向かって切り立ったダイナミックな断崖絶壁となっており、その上には見渡す限りの緑の草原が広がっています。青い海と空、そして緑の絨毯のコントラストは息を呑むほどの美しさで、スマホで適当に撮影しても確実にインスタ映えする、絶好のフォトスポットです。観光客の方にも強くオススメしたい絶景ポイントです。
過酷で楽しい「小学校の遠足」の思い出
この高崎鼻の広大な草原は、私が小学生の頃「遠足の目的地」の定番でした。 小学校から高崎鼻までは、片道で距離にしておよそ5kmくらいはあったと思います。バスなどは使わず、すべて徒歩での行き帰りは、子供の足にはかなりキツく、ある意味「地獄の行軍」だったと記憶しています(笑)。
遠足の前日、友達と一緒に駄菓子屋へ行き、「低学年は300円まで、高学年は500円まで」という厳しい予算制限の中で、どれだけ満足のいくお菓子を選ぶかに心血を注ぎました。遠足の準備をしている時は最高に楽しいのですが、当日の過酷さを思い出すと今でも笑ってしまいます。
高崎鼻は遮るものがない岬のため、とにかく風が強いのも特徴です。 苦労して歩いて到着し、さあお弁当を食べようとレジャーシートを広げた瞬間、突風に煽られて大切なお菓子が飛んでいってしまったり、油断しているとシートごと吹き飛ばされてしまうこともしばしば。実際に、シートごと転がっていった友達もいました。高崎鼻を訪れる際は、素晴らしい景色とともに「強風」にも十分注意してくださいね。
3. 福江島を代表するエメラルドグリーンの絶景!「高浜海水浴場」

3つ目は、福江島の美しい海をインターネットで検索すれば、100%確実に一番上に出てくる超有名なスポット、「高浜(たかはま)海水浴場」です。
夏のハイシーズンには、地元民はもちろん、帰省客や観光バスに乗った観光客が押し寄せ、最も賑わいを見せる福江島のエース級のビーチです。

圧倒的な透明度と白い砂浜

高浜海水浴場の美しさは、国内でもトップクラスです。「日本の渚・百選」や「日本の海水浴場88選」にも選出されており、どこまでも続く真っ白でサラサラの砂浜と、手前から奥に向かって水色からエメラルドグリーン、そして深い青へと変わっていく海水の透明度は、まさに絶景の一言です。天気や風の状態が良い日に訪れれば、五島観光の最大のハイライトになること間違いなしです。 たまに、波に乗ってサーフィンを楽しんでいる人の姿も見かけます。
ただし、夏休みやお盆の時期は大変混雑します。あまりにも有名なビーチであるため、写真を撮影しようとするとどうしても他のお客さんがたくさん入り込んでしまう可能性があります。「誰もいないプライベート感のある絶景写真」を狙うなら、早朝や夕方、あるいは海水浴シーズンを少し外した春や秋に訪れるのがおすすめです。
海の家のアルバイトと、ノスタルジックな思い出
この高浜海水浴場は、私にとって人一倍思い入れが強い場所でもあります。 高校生の頃や、島外から帰省してきていた頃、高浜のビーチに建つ「赤い屋根に白い壁」の可愛らしい海の家(カフェ)で、夏休みのアルバイトをしていました。
普通の海の家のアルバイトといえば、炎天下で汗だくになって焼きそばを焼いたり浮き輪に空気を入れたりする過酷なイメージがありますが、ここのカフェは「海の家なのに冷房がしっかりと効いている室内」という、信じられないほど恵まれた最高の労働環境でした。涼しい部屋の中から、エメラルドグリーンの海で遊ぶ人々を眺めながら接客をするのは、本当に楽しい青春の思い出です。
昨年、当時お世話になったオーナーさんがお店をたたんでしまったと聞きました。今年は別の方が同じような形で海の家を運営するみたいですが、以前のオーナーさんの顔が見られないのは少し寂しい気もします。「あの頃のオーナーさんの下で、もう一度あの海の家でアルバイトをしたかったなぁ」と、夏の高浜の海を見るたびにノスタルジックな感傷に浸ってしまいます。
島民は意外と泳げない!?福江島の海と子供たちのリアルな関わり方

このように、三井楽町をはじめ福江島には息を呑むような美しい海がたくさんあります。さぞかし島民はみんな水泳が得意で、イルカのようにスイスイ泳げるのだろう……と観光客の方は想像するかもしれません。
しかし、ここにも面白い「島のリアル」が存在します。
プールがなかった時代の「泳げない島民あるある」
実は、昭和の時代の三井楽小学校には「プール」がありませんでした。 プールの授業がないため、正しいクロールや平泳ぎの息継ぎの方法を教わる機会がありません。そのため、当時の子供たちは「素潜りは何メートルも深く潜れるのに、水面を泳ぐことは全くできない」という、極端なスキルを持った海っ子ばかりでした。
夏休みになれば毎日のように海へ通い、浮き輪にしがみつき、水中メガネをつけて海の底を覗き込み、小さな釣り竿を持って1日中海で遊んでいました。そんな環境で育ったため、残念なことに私も、私の妹も、大人になった今でも「全く泳ぐことができません」。 おそらく、同じ世代の三井楽町の出身者には、私と同じように「海で遊ぶのは大得意だけど、実は泳げない」という人がたくさんいるはずです。
もちろん、現在では立派な市民プールが整備されているため、今の福江島の子供たちは水泳の授業をしっかりと受け、当たり前のようにスイスイ泳げる子が多くなっています。
日焼け競争と、今も昔も変わらない海遊び
夏休みが明けて新学期が始まると、教室では学年別、男女それぞれで「誰が一番真っ黒に日焼けしているか?」を競い合うのが毎年の恒例行事でした。こんがりと焼けた肌は、五島の短い夏をどれだけ海で遊び尽くしたかを示す勲章のようなものでした。
現在の三井楽町の子供たちも、昔と同じように砂浜でハマグリを掘ったり、港の堤防に座ってサビキ釣りをしたりと、五島・福江島という大自然の中でしかできない極上の遊びを全力で満喫しているようです。
都会で暮らした経験があるからこそ、歩いてすぐの場所にこれほど美しく、命の息吹に満ちた海があることの「圧倒的な幸せ」を、福江島に戻ってきて生活している今、しみじみと噛み締めています。
まとめ:観光でも移住でも。福江島の海は人生を豊かにしてくれる

五島列島・福江島の海水浴場と海の魅力、いかがでしたでしょうか。
- 磯遊びの宝庫でプライベート感満載の「中浜」
- 断崖絶壁と草原のコントラストが美しい「高崎」
- エメラルドグリーンに輝く日本屈指のビーチ「高浜海水浴場」
観光で福江島を訪れる方は、ぜひこの3つの海を巡って、五島の海が持つ多様な表情を楽しんでみてください。 そして、移住を考えている方は、虫との戦いや強風といった「大自然の厳しさ」も含めて、この島を愛してほしいと思います。美しい海と豊かな自然は、時に厳しくもありますが、間違いなくあなたの人生を豊かに彩ってくれるはずです。
福江島の海で、皆様が素晴らしい思い出を作れることを心より願っております!








