街を歩けば、甘く香ばしい匂いを漂わせる焼き芋専門店をよく見かけるようになりました。もはや冬の風物詩という枠には収まらず、スイーツのように濃厚な甘さを持つ焼き芋が季節を問わず人気を集めています。この記事では、現在起きている「第4次焼き芋ブーム」の全貌を専門家が徹底解説。結論として、このブームは品種改良による「スイーツ化」、健康志向の高まり、SNSでの拡散、専門店の増加、そしてコロナ禍の需要という5つの要因が重なって生まれたものです。ブームを牽引する「紅はるか」といった人気品種の紹介から、夏の定番となりつつある「冷やし焼き芋」などの新しい楽しみ方まで網羅的にご紹介しますので、読めばきっとあなたにぴったりの焼き芋が見つかるはずです。
そもそも第4次焼き芋ブームとは
冬の風物詩として古くから親しまれてきた焼き芋が、今、かつてないほどの盛り上がりを見せています。実はこれ、歴史上4度目となる「第4次焼き芋ブーム」と呼ばれている現象なのです。 街角の石焼き芋屋さんだけでなく、スーパーやコンビニ、さらにはおしゃれな専門店が次々と登場し、その人気は季節を問わないものへと変わりつつあります。 これまでの焼き芋とは一線を画し、単なるおやつからご褒美スイーツへとその姿を変えたことが、今回のブームの大きな特徴と言えるでしょう。 この章では、まず日本の食文化に根付いてきた焼き芋の歴史を紐解きながら、現在のブームがなぜ起きているのか、その入り口を探っていきます。
過去に起きた3度の焼き芋ブームを振り返る
現在のブームを理解するために、まずは過去に起きた3度の焼き芋ブームを振り返ってみましょう。それぞれの時代の背景と共に、焼き芋がどのように人々の生活に寄り添ってきたかが見えてきます。
| ブーム | 時期 | 時代背景とブームの特徴 |
|---|---|---|
| 第1次 | 江戸時代後期(1804年頃〜) | 砂糖が貴重だった時代、さつまいもの自然な甘さは庶民にとって特別なごちそうでした。安くて甘い焼き芋は幅広い階層に愛され、江戸の街では焼き芋屋が大人気に。浮世絵にもその様子が描かれるほど、江戸文化に深く根付いた最初のブームです。 |
| 第2次 | 明治時代〜大正時代(〜1923年頃) | 明治維新後の都市部人口増加により、安価で腹持ちの良い焼き芋が再び人気に。専門店も登場し、冬の定番として定着しました。関東大震災や洋菓子文化の拡大の影響を受け、徐々にブームは落ち着いていきます。 |
| 第3次 | 昭和中期(1951年頃〜1970年頃) | 戦後の高度経済成長期には「いしや〜きいも〜」の呼び声で知られるリヤカーの移動販売が登場し、大ブームに。昭和を象徴する焼き芋文化となりましたが、1970年代のファストフード普及などで徐々に衰退へ向かいました。 |
今回の焼き芋ブームが始まったきっかけ

そして2003年頃から、現在の第4次焼き芋ブームが静かに始まりました。 きっかけは複数ありますが、特に大きな原動力となったのが、品種改良によるさつまいもの「スイーツ化」と、調理技術の進化です。 1998年頃に業務用の電気式焼き芋オーブンが開発されたことで、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでも手軽に高品質な焼き芋が一年中提供できるようになりました。 これにより、焼き芋は冬限定の特別なものではなく、日常的に楽しめる存在へと変わっていったのです。
さらに決定的だったのは、「安納芋」や「紅はるか」といった、従来の品種とは比較にならないほど糖度が高く、ねっとりとした食感を持つ品種の登場です。 これらの品種が持つ蜜のような甘さとクリーミーな舌触りは、焼き芋の概念を根底から覆し、「ヘルシーな天然のスイーツ」としての新たな価値を生み出しました。 この質的な変化が、健康や美容に関心の高い層や、新しいものに敏感な若い世代の心を掴み、現在の大きなうねりへと繋がっていったのです。
専門家が分析する焼き芋ブーム5つの理由
私たちの暮らしの中に、いつの間にか深く浸透した焼き芋ブーム。かつては冬の風物詩であった焼き芋が、なぜ今、季節を問わずこれほどまでに人々を惹きつけているのでしょうか。その背景には、単なる懐かしさだけでは語れない、現代の価値観やライフスタイルと密接に結びついた5つの理由が存在します。
理由1 品種改良による「スイーツ化」の加速
かつての焼き芋といえば、口の中の水分をすべて持っていかれるような「ほくほく」とした食感が主流でした。しかし、現在のブームを牽引しているのは、まるで上質なスイーツのような「ねっとり」とした食感と、そこから溢れ出す蜜の濃厚な甘さです。

「紅はるか」や「安納芋」に代表されるこれらの品種は、長年にわたる品種改良の賜物です。デンプンを糖に変える酵素「β-アミラーゼ」の働きを最大限に活かすため、収穫後に一定期間貯蔵して熟成させ、さらに低温でじっくりと時間をかけて加熱することで、驚くほどの甘さを引き出すのです。この劇的な「スイーツ化」こそが、焼き芋を単なるおやつから特別なごちそうへと昇華させ、幅広い世代の心を掴んだ最大の理由と言えるでしょう。
理由2 健康・美容志向の高まり

甘いものは食べたい、けれど健康や美容への意識も手放したくない。そんな現代人の少しわがままな願いに、焼き芋は優しく寄り添ってくれます。さつまいもは、食物繊維やビタミンC、カリウムといった私たちの体に必要な栄養素を豊富に含んでおり、「ギルトフリースイーツ」としての側面を持っています。
砂糖やクリームをふんだんに使った洋菓子とは異なり、素材そのものが持つ自然な甘さを楽しむ焼き芋は、心置きなく楽しめる自然派のスイーツなのです。その栄養価の高さと体に優しいイメージが、健康志向の強い層から絶大な支持を集めています。
| 栄養素 | 期待できる主な効果 |
|---|---|
| 食物繊維 | 腸内環境の改善や便秘解消のサポート。 |
| ビタミンC | 肌の健康維持、抗酸化作用で体の調子を整えます。 |
| カリウム | 余分なナトリウムの排出を助け、むくみ対策に役立ちます。 |
| 低GI食品 | 食後血糖値の急上昇を抑え、エネルギーが持続しやすい特徴があります。 |
理由3 SNSでの「映え」と情報の拡散

焼き芋を二つに割ったとき、黄金色の断面からとろりとした蜜が溢れ出す光景は、私たちの食欲を強く刺激します。この思わず写真に収めたくなるような「シズル感」が、InstagramをはじめとするSNSと非常に相性が良かったことも、ブームを全国規模に拡大させた大きな要因です。
「#焼き芋」「#蜜芋」「#焼き芋専門店」といったハッシュタグを辿れば、全国各地の美味しそうな焼き芋の写真が次々と目に飛び込んできます。インフルエンサーによる投稿や一般ユーザーの口コミが瞬く間に拡散され、これまで焼き芋に馴染みのなかった若い世代にもその魅力が伝わり、新たなファン層を獲得するに至りました。
理由4 専門店の増加とブランド化

「石や〜きいも〜」という懐かしい呼び声とともに軽トラックで販売される風景も風情がありますが、現在のブームを象徴しているのは、洗練された店舗を構える「焼き芋専門店」の存在です。
これらの専門店では、独自の貯蔵庫でさつまいもを数ヶ月間熟成させて糖度を最大限に引き出したり、特別な製法の窯で焼き上げたりと、徹底したこだわりが見られます。希少品種を扱ったり、焼き方を変えて食感の違いを楽しませたりと、専門店ならではの付加価値を提供することで、焼き芋は「ブランド化」されました。一本数百円、時には千円を超えるような高級焼き芋も登場し、日常のおやつから、大切な人への手土産や自分へのご褒美といった特別な需要を生み出しています。
理由5 コロナ禍におけるおうち時間と中食需要

私たちのライフスタイルに大きな変化をもたらしたコロナ禍も、焼き芋ブームを語る上で欠かせない要素です。外出を控えて自宅で過ごす時間が増えたことで、手軽に楽しめる「おうちスイーツ」への関心が高まりました。
そんな中、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで手軽に購入できる高品質な焼き芋は、中食(なかしょく)需要に見事に応えました。温めるだけですぐに専門店の味に近いものが食べられる手軽さが受け、日常的な食生活の中に焼き芋が浸透していく大きなきっかけとなったのです。また、テイクアウトを専門とする焼き芋店が増えたことも、この流れを力強く後押ししました。
現在の焼き芋ブームを牽引する人気品種
ひとくちに「焼き芋」と言っても、その味わいや食感は品種によって大きく異なります。現在のブームを支えているのは、個性豊かなさつまいもたちの存在にほかなりません。蜜がしたたるほど甘い「ねっとり系」、上品な甘さで滑らかな舌触りの「しっとり系」、そして昔ながらの素朴な味わいが魅力の「ほくほく系」。それぞれの代表的な品種を知ることで、あなたの好みにぴったりの焼き芋がきっと見つかるはずです。
ねっとり系の代表格 紅はるかと安納芋

現在の焼き芋ブームの火付け役ともいえるのが、スイーツのような濃厚な甘さと、とろけるような食感が特徴の「ねっとり系」です。 中でも特に人気を二分しているのが「紅はるか」と「安納芋」です。
「紅はるか」は、他の品種を圧倒するほどの強い甘みが最大の特徴で、その名は「はるかに美味しい」ことから名付けられました。 加熱すると糖度が50度を超えることもあり、まさに天然のスイーツと呼ぶにふさわしい味わいです。 一方の「安納芋」は、鹿児島県種子島原産の品種で、水分量が多く、焼くとまるでカスタードクリームのようなクリーミーな食感になります。 果肉の鮮やかなオレンジ色と、蜜のような濃厚な甘みで不動の人気を誇ります。
| 品種名 | 主な特徴 | 食感 | 果肉の色 |
|---|---|---|---|
| 紅はるか | 蜜があふれるほど強い甘さが特徴で、後味はすっきりしています。 | 水分が多く粘質で、しっとり・ねっとりした食感です。 | 黄白色 |
| 安納芋 | 水分が多く、カスタードのように濃厚で深い甘みがあります。 | とろけるようなクリーミーなねっとり食感。 | 鮮やかなオレンジ色 |
しっとりなめらかシルクスイート

「ねっとり系」と「ほくほく系」のちょうど中間に位置し、両方の良さを兼ね備えているのが「しっとり系」です。その代表格が、2012年に登場した比較的新しい品種である「シルクスイート」です。
その名の通り、絹(シルク)のようになめらかで、きめ細かい舌触りが最大の特徴です。 水分を多く含んでおり、口に入れるととろけるような食感を楽しめます。 甘さは濃厚ながらも後味はすっきりとしており、その上品な味わいは万人に愛されています。 焼き芋にするとその魅力が一層引き立ちますが、冷めても美味しく、スイートポテトなどのスイーツ作りにも最適な品種として人気を集めています。
昔ながらのほくほく系 鳴門金時と紅あずま

近年のねっとり系ブームの中でも、昔ながらの素朴な味わいで根強い人気を誇るのが「ほくほく系」のさつまいもです。 水分が少なく粉質で、栗のようなほっくりとした食感と、上品で優しい甘さが魅力です。
西日本の代表が、徳島県のブランド芋として名高い「鳴門金時」です。 鮮やかな黄金色の果肉と、栗のようなほくほくとした食感、そして上品な甘さが特徴で、焼き芋はもちろん天ぷらや煮物など、幅広い料理でその美味しさを発揮します。 一方、東日本で広く親しまれているのが「紅あずま」です。 繊維質が少なく、どこか懐かしさを感じる素朴でしっかりとした甘みが特徴で、これぞ焼き芋、という伝統的な味わいを楽しむことができます。
| 品種名 | 主な特徴 | 食感 | 主な産地 |
|---|---|---|---|
| 鳴門金時 | 上品な甘さで煮崩れしにくく、幅広い料理に使いやすい品種です。 | 粉質で栗のようなほくほく食感が楽しめます。 | 徳島県を中心とした西日本 |
| 紅あずま | 昔ながらのしっかりとした甘みがあり、焼き芋にも人気です。 | 繊維が少ない粉質で、ほくほくとした食感が特徴です。 | 千葉県や茨城県など関東地方 |
食べ方も進化中 新しい焼き芋の楽しみ方
かつて焼き芋といえば、冬の寒い日にハフハフしながら頬張るのが定番でした。しかし、現在のブームを支えているのは、その常識を覆すような食べ方の多様化にあります。温かいまま食べるという固定観念から解き放たれ、季節を問わず、また様々な食材との組み合わせによって、その魅力は無限に広がり続けているのです。
夏の定番へ 冷やし焼き芋の魅力

焼き芋ブームの進化を最も象徴しているのが「冷やし焼き芋」の登場です。じっくりと加熱されたさつまいもを、あえて冷やす。このひと手間が、焼き芋を全く新しいスイーツへと昇華させました。その最大の魅力は、食感と甘みの変化にあります。さつまいものでんぷんは、加熱後に冷やされる過程で「レジスタントスターチ」という成分に変化し、ねっとりとした食感が増すのです。さらに、甘みもより強く感じられるようになり、まるで天然のスイートポテトのような濃厚な味わいが楽しめます。
ひんやりとした口当たりは、夏の暑い日にも心地よく、アイスクリームのような感覚で罪悪感なく楽しめるヘルシーなデザートとして、多くの人々の心を掴んでいます。専門店はもちろん、スーパーやコンビニエンスストアでも手軽に購入できるようになったことで、夏の風物詩としての地位を確立しつつあると言えるでしょう。
アレンジ無限大 焼き芋スイーツの世界

焼き芋そのものの美味しさはもちろん、そのポテンシャルの高さから、様々なスイーツの主役としても注目を集めています。焼き芋が持つ自然な甘みと風味は、他の食材との相性も抜群。カフェやパティスリーでは、焼き芋を贅沢に使った創作スイーツが次々と生まれています。
ご家庭でも、少し手を加えるだけで専門店の味を再現できるのが魅力です。焼き芋をベースにすれば、砂糖の使用量を抑えながら、素材本来の味を活かしたヘルシーなスイーツが手軽に完成します。
| スイーツ名 | 特徴 | 楽しみ方 |
|---|---|---|
| 焼き芋モンブラン | 栗の代わりに焼き芋ペーストを使った、優しい甘さと香りが魅力のスイーツです。 | タルト生地・スポンジ・焼き芋など土台を変えると表情が変わります。シナモンやラム酒で大人の味わいに。 |
| 焼き芋ブリュレ | 冷やした焼き芋の表面に砂糖をまぶし、バーナーでキャラメリゼした贅沢な一品。 | パリパリのカラメルと、ひんやり・ねっとり焼き芋の対比が絶妙。バニラアイス添えが定番です。 |
| 焼き芋シェイク | 焼き芋・牛乳・アイスをミキサーにかけるだけの手軽で濃厚なドリンク。 | 焼き芋の自然なとろみがなめらかさを演出。黒蜜・はちみつ・きな粉のトッピングもおすすめです。 |
自宅で簡単 プロの味を再現する方法

ブームを牽引する専門店の焼き芋は、特別な機械で焼いているから美味しいのだと思われがちです。しかし、実はご家庭にある調理器具でも、いくつかのポイントを押さえるだけで、プロ顔負けの味を再現することが可能です。大切なのは、さつまいもが持つ酵素「β-アミラーゼ」が最も活発に働く温度帯で、いかにじっくりと加熱するかという点にあります。
この酵素は、60℃から70℃前後で最もよく働き、さつまいものでんぷんを麦芽糖という甘い糖に変えてくれます。この「低温加熱」を意識することが、甘くて美味しい焼き芋作りの最大の秘訣なのです。
| 調理器具 | 特徴とコツ |
|---|---|
| オーブン | 最も本格的な焼き芋に近い仕上がりになります。濡らしたキッチンペーパーとアルミホイルで包み、160℃の低温で90分以上かけてじっくり加熱します。竹串がスッと通れば完成です。 |
| 炊飯器 | 手軽に作りたい時に最適です。さつまいもと少量の水(100ml程度)を入れ、玄米モードまたは通常炊飯モードで炊くだけ。蒸し焼きのようなしっとり食感が楽しめます。 |
| フライパン | 思い立ったらすぐ作れる方法です。アルミホイルで包んださつまいもをフライパンに入れ、蓋をして弱火で40〜60分加熱します。時々転がすことで全体に均一に火が通ります。 |
まとめ

今回の記事では、現在進行形で盛り上がりを見せる第4次焼き芋ブームの背景を、様々な角度から紐解いてまいりました。この大きなうねりは、決して偶然に生まれたものではありません。
「紅はるか」に代表される品種改良がもたらした蜜たっぷりの甘さ、健康や美容を意識する人々の増加、SNSを介した魅力的なビジュアルの拡散、そして専門店の登場によるブランド化。これらの要因が一つひとつ重なり合ったところに、コロナ禍における食生活の変化が加わり、現在のブームが形作られたと言えるでしょう。
かつて冬の味覚の代表格であった焼き芋は、冷やし焼き芋や多彩なスイーツへと進化を遂げ、今や一年を通して私たちを楽しませてくれる存在になりました。このブームは、さつまいもが持つ底知れぬ魅力と、時代の求めるものがぴたりと重なった、必然の結果なのかもしれません。








